常に戦争の相手を必要としている存在は、論理的に喧嘩相手を作り出そうとする。
しかし、元々無理な論理であるから、すぐにそのストーリーのインチキ性がばれる。
そうなると次はどうするか。想像するだに恐ろしい。
今回も野暮な話を続ける。
ウォー・オン・テロール(War on Terror)。
戦後60年を経て、未だに「war」が世界の現状のキーワードの一つであり続けることは、本当に残念なことだが、ここでも取り上げざるをえない。
これを、「テロとの戦い」と理解すれば、テロ根絶のために、例えば、USAを先頭にして先進工業国と称される国々に偏っている富をもっと分散して、世界の貧富の差を少しでもなくしていく、といった努力が、その戦いの一つの項目となるだろう。
しかし、現実は、そのような甘っちょろい理想的な、人間的な願いは顧みられることもなく、「terror」という言葉が「terrorism」と同じに使われて、「War on Terrorism」とも称されている。こうなると、これは「War on Fascism」の使いかたと同じように、テロリズムとの戦い、テロリズムをもたらしているテロリストを根絶する戦争という意味合いとなり、敵を定めて、そいつをやっつけるという、まさに「戦争」である。
テロとは何か、テロリズムとは何かを定義することは、今回の国連(UN)でもまた達成できなかったように、立場が異なればこの言葉の利用方法も異なる。先の大戦の時、占領地フランスでのレジスタンス(Resistance)を、占領軍であるナチスドイツはテロリズムと命名し、激しく弾圧を行った。このときから、自分たちの言うことを聞かない抵抗勢力をテロリストと名づけて、「反社会的行動」の印象をつけることが、ある面で常套になった。今回イラクにおいて、占領軍である米軍がイラク国内の抵抗行動をテロリズムと規定し弾圧に躍起になっていたのもこの流れの中にある。
皮肉なことに、この使い方を踏襲すれば、USAはナチスドイツと同じ立場に立たざるをえなくなる。ファシズムであろうと民主主義を掲げていようと、自分たちに反抗する者への対し方は同じであることを語ってしまうことになる。ブッシュ政権におけるこの規定は、厳密に言えばフランスのレジスタンス運動もテロリズム運動であると歴史上規定せざるを得ないところにたどりつくだろう。ともあれ、占領地における正規軍でない団体による抵抗行動も、軍事行動とみなすことができるだろう。それゆえ、占領軍は正規軍を動員してその根絶を図るのは当然といえば当然である。
一方、01年9月11日のWTCへの突入は、それではなんだろう。これは、誰が見ても典型的なテロ行為であろう。この種のテロは犯罪(crime)行為であり、したがって、警察の管轄であることは自明であるし、犯人が検挙されれば刑事裁判にかけられることも、民主主義社会においては疑いのないところだろう。ところが、9月11日の行為はブッシュ政権によって「戦争」行為と規定され、以降、その行為の主体者に対しての戦争が宣せられ、今も続いていることになる。本来ならばこの犯罪行為に対しては、所轄のニューヨーク警察(NYPD:New York Police Department)が主導して大々的な操作網がしかれるところが、なぜかそのようなことは行われなかった。
もし、9月11日の突入行為を戦争行為と規定するならば、すなわちUSAに対する戦争と規定するなら、その行為そのものに驚くことはない。戦争においては、無抵抗の市民を爆撃で無差別に殺すことは「アタリマエ」のことであり、先の大戦においては、日本は中国の重慶ほかの都市を、ドイツはロンドンその他を、イギリスはドイツ諸都市を、アメリカは日本の諸都市を焼き、市民を殺してきた。このときの犠牲者の数と比べれば、WTCの犠牲者の数は、-もちろん非情なデジタル数字の世界でだけの話として-、ものの数ではない。犠牲者には申し訳ないが、ヒステリックにギャーギャー騒ぐほどの「爆撃」ではない。
「War on Terro」を宣言して、USAは誰を相手に戦争をしているのだろうか。国家間の戦争でもないし、国内の内戦でもない。今までの歴史の中には、少なくとも近代の歴史にはなかった奇妙な戦争を戦っていることになる。相手は国家ではないから、言ってみればNGOのごとき団体であろう。いくら戦争をしたくてたまらないからといって、ルールという面からいえばなんら合理性を持たない、無法者(outlaw)の行為と言えるだろう。
USAは、第二次対戦では日独伊のファシズムを、朝鮮戦争とベトナム戦争では共産主義と、そして悪の帝国(Evil Empire)ソ連との40年の冷戦(Cold War)と、常に自分たちの「正義」に対抗する相手役「悪」を持つことができた。しかし、90年のソ連邦の崩壊で悪役を失ってしまい、自己の確認が取れなくなってしまった。かつてのナチスドイツや大日本帝国のような大物とは比べようもない小物であるし、なんだか正体不明であるが、ともあれ「テロリスト」を悪役に仕立てて戦争を続けるしかないのだろう。
今回のテーマに関し、英語の課題で言えば、「War on Terror」の「on」という前置詞が厄介である.日本人の感覚で言えば「War for Terror」で「for」を使いたくなるところだが、なぜか「on」が使われる.なぜなのかを明快に説明する英語力は私にはない。
(05.9.18. 篠原泰正)