自分が開発した物が商品化に一歩近づくのはうれしい。だが、事業部にとってはクレーム対策の一つとして今すぐに必要なのかもしれないが、まだ不十分な状態でユーザーテストに進むのは私には不満である。しかし、もしうまくいけば、レジストビジネスを救うための目玉になるのは間違いない。それに今はそれほど責任のある立場ではない。私は静かに事の成り行きを見守ることにした。これまで研究所でスケールアップテストが行なわれていたのが、急遽事業部に技術移管されることになり、それと同時にイタリアの会社でプラントテストされることになった。
4月のヘラクレス社による買収の噂から、ずっと高値を続けていたブルース社の株価がこの1週間で急落し、一時の100ドルをこえる高値から、10月第1週末には50ドルを割った。まだその下落は止まっていない。
前期からの好調が全社的に今期もしばらくは続いていたのだが、かねてからイギリスを中心としてヨーロッパで騒ぎとなっていた狂牛病問題がオーストラリア、そして北米へと飛び火した。そしてブルース社の包装材料事業に徐々に影響を及ぼし、問題は次第に深刻さをましてきた。食肉包装分野ではブルース社は世界的に圧倒的なシェアを誇っている。だからこの狂牛病問題は、一過性のものである。だが一時的にではあっても食肉包装用多層収縮フィルムの売り上げに大きな影響を及ぼし始めている。
この問題はいずれ時が来れば売り上げが回復するのは確実で、確かに当面の利益は減少し株価は下がるだろうが、しばらくじっと我慢すればすむことだ。ところがここにきて、新たな大問題が明るみに出た。アスベストによる珪肺症問題である。アスベストが現在のように公害物質として大きく問題となる以前は、アスベストは特に耐火性の材料として建設分野で多く使われていたのだが、ブルース社の建設材料部門でも該当する製品が、もう昔になるが、あった。
ところがここにきて、老朽化した建物をいずれ壊して立て替えるときに、昔使用したアスベストの粉塵をどうするか、という問題がクローズアップされている。ブルース社がこんな問題を抱えていることが公になり、それが大きく報道された。この問題を片づけるにはブルース社だけで300百万ドルとも、一説には1.000百万ドルを超えるとも言われている。これまで、事業を売却して借入金を減らしてきたのだが、新たに潜在的な多額の借入金を抱えることになったといってもいい。その上処理を誤るとブルース社は、公害企業との烙印を押され、致命的な打撃を受けるに違いない。(クリヤ・ビュー)
今、日本で話題になっいる「アスベスト」が人体へ及ぼす害を、この時点で分っていたようだ。
日本は、この情報を何時頃からキヤッチしていたのであろうか?あるいはキヤッチしていたにも拘わらず国民への「情報開示」を怠っていたのであろうか。何れにせよ自ら情報をキヤッチして自分を守るしかない。会社も、国も頼れない時代となった、頼れるのは自分だけだ。(矢間)