もちろん、米国研究所は例え事業部サポート制であっても、ほかにその存在価値を示すことができる方策はあると思う。例えば、一旦実験をともなう研究開発活動を中断し、既存事業分野の情報活動に集中することだ。まず社内技術にどんなものがあるか皆で集めて整理してデータベース化する。同時に社外技術を徹底的に収集してこれもデータベース化して分析する。
ここで得られるデータベースと分析結果、すなわち技術動向についての知見を事業部ラボに提供する。この情報は事業部ラボが研究開発をするために極めて有益なはずだ。そして、この分析作業を通じて必ず自分たちの技術力に見合ったいくつかの潜在しているニーズも掴めてくる。その時点でテーマを事業部に提案して実験を開始する。
もちろん、情報活動は継続する。途中でブレーンストーミングをやってももちろんいい。こんなやり方だって、可能なはずだ。確かにこんなことを例え提案して見たところで、すぐには成果の現われにくい地味な努力をスピッツ前社長や事業部トップが認める訳がない。だが、こんどのキャステル社長にはぶつけてみる価値があるのではないか。これを私は副所長のルーカスに提案してみたが軽く却下されてしまった。
私は米国研究所の一番の役割は、本来は成功したら新しく事業部ができるくらいにインパクトが大きく、そして技術的に難度の高いテーマに挑戦することだと思っている。この場合、研究は長期にわたるし、成功確立は高くない。単独の事業部が支えきれるとは思わない。だから米国費用でやる。2番目には、苦戦中の事業部をサポートしてできるだけ早く、足りない技術力を高めて競争力、新製品開発力をつけることだ。苦戦中の事業部は金がない。米国費用でやるしかない。だが、事業部スポンサー制の元では米国研究所はこうした役割を果たすことはできない。
今度アメリカに来たのは、ではどうやって米国研究所が米国研究所としての役目を果たしていくのか、それを見たかったからだ。だが今度の共有技術構築活動なるものを見せてもらってますます、米国研究所は速やかに閉鎖されるべきだとの感を強くした。(クリヤ・ビユ-)