アメリカ人はブレーンストーミングが一緒になった会議が大好きである。いや、会議自身が私からみると、ブレーンストーミングだ。1989年シスコムジャパンからブルース社日本研究所に移ってから、私はたびたび電子材料事業部でのブレーンストーミング型の会議に参加するチャンスをもった。これはシスコムジャパンで経験したBDTでの議論よりはましだったが、本質的には同じであった。
ましなのはセールスマンはマーケット情報を提供するだけで議論には加わらず、R&D、マーケティングと製造だけの会議だったことだ。セールス情報はマーケティングが集約する。ただし、セールスマンを通じての情報だが、セールスは既に市場を失いつつある所だったから、競合品が備えていて自分たちの製品にかけている性能だけに目が向いてしまい、それが市場の真のニーズだと錯覚してしまう。それともなければ、あったらいいに決まっている見え見えの製品コンセプトをアイデアと称してこれ見よがしに提案してくる。
技術者の創造力を刺激するような目新しい情報などひとつもない。とうの昔に皆が聞いたことがある情報ばかりだ。顧客自身が気がついていない潜在ニーズを見つけ出す能力を欠いているのはシスコムジャパンの場合と同じだ。本来ならマーケティングセールスからの情報を分析して技術動向をつかみ、潜在ニーズを見つける責任があると思うのだが、情報が古くて信頼が置けない上に分析能力がない。
R&Dにしても既に述べたとおり、自社に利用できるどんな技術があるのかさえよく把握しておけば自分たちが置かれている状況くらいは認識して議論ができるのだが、そうした準備がなく、認識がバラバラのままで会議に入るからまとまりのないブレーンストーミングになってしまって、いつまで経っても的が絞れない。時間が無駄に過ぎていくだけだ。
いや、共有技術構築活動の場合は研究所員だけのブレーンストーミングだから、普通に考えたらニーズに関する情報がシスコムジャパンや電子材料事業部のケースよりももっと不足しているので、状況はもっと悪い。いくつもの条件が揃っていなければブレーンストーミングはなかなかうまくいかない。いや、ブレーンストーミングだけでなく、どんな議論、交渉だって同じだ。それにしても、技術屋だけのブレーンストーミングなんだから、せめて少しは自分たちの技術、関連している社外の技術、そして文献、雑誌、特許などからの技術動向や市場動向を自分たちでまとめて分析する程度の準備をしてからブレーンストーミングに入って欲しい。それができていなかったらせめて、分担してそれをやりながら平行してブレーンストーミングをして欲しい。そうでないと製造現場のTQC活動にも劣る。
ブルース社の、アメリカ人のやり方はこの程度のものなのか。わざわざ日本からそれを見るためにやってくるほどのものではなかった。こんなことをやっていて事業部が喜んでスポンサーになってくれるようなテーマが見つかるとはとても私には思えない。
私は共有技術構築活動そのものに大きな疑問を持つ。確かに所内での、そして研究グループ間でのコミュニケーションとか情報の共有化がこの研究所では極めて不十分であると思う。だから、それを改善することが目的だとしたら共有技術構築活動、そしてマトリックス組織を全否定するつもりはない。だが、情報の共有を促進するための雰囲気とか状態はどんな研究所にとっても普段からなくてはならないものである。
どこの研究所でも会社でもこんなことは普段から心がけている問題である。だから今さら研究所がこんなことをやっているようでは遅すぎる。この緊急時に研究所のマネジメントが、一般論でなく、もっと明確で具体的な戦略と哲学を示して引っ張らなければ事業部のサポートを受けられるようなテーマが出てくる訳がない。こんな遅すぎるつまらないことしか考えつかないようなマネジメントの言うことを聞いていてもラチがあかない。(クリヤ.ビユ-)