先日、朝日新聞を読んでいたら、日本の某XX大臣(名前も部門も忘れた)が急激な石油の値上がりの元凶に投機会社を上げ、「その行動には怒りを感じる」旨の発言があったことを報じる小さな記事に出くわした。多分、この発言の背景には、米国の投信会社ゴールドマン・ザックス(Goldman Sachs)の予想、「近いうちに石油価格は250ドルまで行くだろう」という予想発表があったのだろう。
この某大臣の発言にはオカシナ点が三点ある。
一番目は、投機・投信会社の行動を怒る矛盾である。法律を改定して、怪しげな国際マネーが自由に日本国内を暴れまわれるようにしたのは、あなたの政府ではございませんでしたか?とお尋ねしたい。
何とかファンドとかペケペケ投信とかに「礼儀作法」を要求することは、プロレス興業に、子供達への悪い影響があるから凶器攻撃という反則行為は止めるように、と政府通達を出すようなものだ。プロレスはもともとそういうものであり、子供への悪影響を心配するならテレビ放映を許可しなければいいだけである。ペケペケファンドに節度をもってお金を運用してくれと期待するのは、人間と経済に対する基本的理解不足であることがわかっていない。マネーを動かして巨額のマネーを生み出している人たちは「仁義無き世界」の住人であり、彼らに礼儀作法を期待する方がアホである。
二番目は事実誤認である。投機の動きが無ければ適正な価格は60ドルぐらいである、という発言は、その根拠がどこにあるのか不明であるが、一言で言えば、事態がまったく理解できていないことを現している。値上がりは需要に対して供給が不足しているから生じるのであり、その事実をつかんでいるから投機会社は買うのである。供給が増えるとか需要が減ると見通ししていれば、誰が先物を買う?
供給はなぜ増えない?現実に生産量がピークに達したからである。しかも産油国の経済も発展して、自国内の消費が増えているから、輸出量はその分減る。さらに、世界の石油の70%は産油国の国営石油会社に握られており、その大半は先進諸国の「命令」、「お願い」などに唯々諾々と従うものではなくなっている。つまり、先進諸国政府のアウトオブコントロール(Out of Control)になっている。数年前まで石油価格が安定していた一つの理由に、北海油田の存在があった。毎日5百万バレルの石油を汲み上げていたから、供給不足などの事態にも、先進諸国の要求を受けて調整出動することができた。この油田もいまや見る影もないほどに涸れて来ている。バッファの力は失われてしまったのだ。また、米国の言いなりであったメキシコの油田も既にピークを越えて、その産出量は前月割れ、前年割れが続いている。ここももはや調整機能を失っている。
三番目は、現状を認識しないままの責任のすり替えである。
供給が増えないなら需要を減らせば値段は下がる。小学生でもわかる経済の法則である。投機会社を責めるのではなく、毎日5百万バレルも消費している量を、「日本国政府」として減らしていく対策を打ち出さねばならない。その責任をまったく感じていないから、お気楽な発言となって現れるのだろう。米国を先頭にして、貴重な資源をジャブジャブ消費している先進諸国に働きかけて、”消費量を減らさないと価格は上がり続ける、ヤバイ”と率先して動くべきところであるが、そのような考えはこれっぽっちも頭に浮かんでいないのだろう。
この程度の頭の政府であるから、石油に代るエネルギー確保の産業、太陽光発電とか風力発電などの産業も一向に国の戦略に組み込まれない。政府の支援を得られないまま、民間企業が歯を食いしばって孤軍奮闘をまだ続けるしかなさそうである。
(08.06.20.篠原泰正)