この夏、北極海の氷がどこまで溶けるかは、これからの地球がどうなるかを占う上で、もっとも重要な現象になるだろう。
昨年、2007年の夏の北極圏の温度は、米国国立大気研究センターのレポートによれば、1978年から2006年の平均温度よりも2度Cも高かったとのことだ。これによって、海氷はかつて無い規模で小さくなり、また薄くなった。そして、この冬の間に凍った氷も、薄くなった氷の上に積み重なって凍ったわけだから、当然溶けやすい氷となっているだろう。
そして、何よりも恐ろしいのは、北極圏の温かい空気と氷が溶けた温かい海水によって、ロシア、アラスカ、カナダ内陸の永久凍土(permafrost つまり permanently frozen soil)が溶けることにある。永久凍土は北半球の陸地の25%を覆っており、しかも、地球全体の土地が蓄えている炭素(carbon)の30%はここに蓄積されているという。この炭素がCO2の20倍の温室ガス効果を持つメタン(methan)となって大気中に吹き上がれば、地球はまさに焦熱地獄と化す。
夏の間に溶けた永久凍土の表面は、冬になると再び凍るわけだが、夏の溶け方が激しいと、冬に再び凍った氷と地中深くの永久に溶けない氷の間に、凍らない土がサンドイッチのハムのように残るのだそうだ。このハムを科学の世界では「タリーク talik」と呼ぶようだが、私の辞書にもない言葉である。このタリークハムが残ると、当然、夏の溶解はますます深く広くなっていくことになる。
北極海の氷が溶けるから、これで海底から石油を採掘できる、と喜んでいるバカが西洋世界にはいるようだが、石油どころの話ではない。永久凍土が氷漬けで閉じ込めていたメタンが吹き上がれば、われわれ人間様を含む生物は一巻の終わりとなるだろう。
温かい空気が上に上がっていくのは小学校の理科の時間に習ったところであるが、この空気がなぜ地球のてっぺんに集っていくのか、私がこれまでに読んだレポートには誰も何も書いてくれていない。しかし、われわれの上空の大気温度よりも2倍も3倍も北極圏の大気温度が高くなっていることは、既にデータとして報告されている。地球がグルグル回っているうちに空気がボールの天辺に集っていくのだろうか。
それはともかく、今年の夏も昨年以上に氷が溶ければ、これは既に「positive feedback」がかかっていることを証明することになろう。すなわち、夏季の北極海の氷が全部なくなるまで猛烈な勢いで突き進むことになる。その時間は4、5年という短いものとなろう。そして、永久凍土の溶解とメタンの噴出。
頂点(tipping point)すなわち回帰不能地点(point of no return)を通り越した地球自然を前にして、俺達人類はなすすべが無い。どうする。CO2排出などいくら抑えても地中のメタンを解放してしまっては多勢に無勢である。面倒なことは諦めて最後の饗宴を楽しむか?もっとも大酒食らって寝ても翌日は二日酔いで頭がガンガン鳴る状態で目が覚めるだけだから、やはり正気を保って、ここは一番、諦めずにやるだけのことはやるしかないのだろう。
今年の夏、北極海は吉と出るか凶と出るか。近所の諏訪大明神のおみくじでも引いてくるか。
(08.06.13.篠原泰正)