明日のモノづくりと知恵
小さなターボプロペラ機(turboprop planes)だけでなくもっと大きな地域ジェット機(regional jets)の導入を図って滑走路を拡張したのに、完成の2ヶ月前に定期便(scheduled air service)がなくなってしまった地方空港の小さな悲劇を、ニューヨーク・タイムズが報じている(5月21日、08年)。
米国東海岸のメリーランド州(Maryland)にあるヘイガースタウン(Hagerstown)市役所は数年前に市の空港の拡張を計画し、6千2百万ドル(62億円)をかけて、全長7千フィート(約2千2百メートル)の滑走路を昨年11月に完成させた。しかし、悲しいかな、その2ヶ月前に、すべての定期便はなくなってしまっていた。10年前には毎日10便あったのにゼロになってしまった。
なぜか。今や誰でも理解できるように、航空燃料の高騰を受けて、米国の航空会社は大手も中小もすべて猛烈なダウンサイジングを行っているその一つの小さな結果である。
この悲劇的なヘイガースタウンだけでなく、全米で既に30の地方空港で定期便が飛ばなくなっているし、大小400の空港では便数が減り、昨年5月と比べると全部で2万3千便が消えたという。1年前と較べて航空燃料は85%も騰がったとのことだから、客の少ない便をやめるのは航空会社としては当然であろう。
石油が無ければ飛行機は飛ばない。この事実を痛いほど実感したのは、前の戦争末期の大日本帝国であった。その反対に、石油は無限に安く利用できるという前提の上で、米国はあの広大な空を細かい網の目のような航路でおおってきた。地方に住んでいても、人々は地場のローカル空港から大きなハブ空港へ、ハブからハブへ、そしてそこからまた目的地のローカル空港へとやすやすと移動することができた。
その空の網の目があちこちでほころんできたわけだ。石油が無ければヒコーキは飛ばない、という昭和19年-20年の日本の苦悩を、今初めてアメリカも体験し出したことになる。
それならば、日本人は60年前の痛い経験がDNAに刷り込まれているだろうか。残念ながら、否である。過ぎたことはケロリと忘れ、海の向こうのきらびやかなアメリカ風などにコロリと感染する一般大衆レベルの知性でもって国の政府から地方政府まで経営されているので、ことここにいたってもまだ空港を拡張したり、新規に「国際」空港を建設したりしている。
将来需要を読むのは企画屋の仕事の中でももっとも難しい業であるが、いまだに新規に空港を作ろうとするのは、その難しさ云々のレベルではない。あるいは、定期便がまだまだ増えるなんてことはありえないことは重々承知しているが、「諸事情」により嘘の事業計画書を書いているのなら、その人は正規の企画屋ではなく、「詐欺師」に分類されるだろう。せっかくの頭脳はまともな仕事に向けてもらいたいものだ。
(08.05.23.篠原泰正)