ガソリンの価格が1ガロン4ドル(1リットル1ドル以上)を越えるようになって、初めて、米国の消費者は、大好きなピックアップトラック(pick-up trucks)およびSUV(sport utility vehicles)から離れ始めた。ガソリンがぶ飲み(gas-guzzler)の車を走らせていれば家計を圧迫しますよということは、世の中の動きに敏感であれば、遅くとも既に2年前にはわかっていたはずだが、目の前に価格表を突きつけられないと行動に結び付かなかったわけだ。
一方で、自動車の商品企画に携わっている人たちは、当然、今日の状況を予測して、早くからもっと小型の、もっと燃料消費効率の良い車に重点を置くべきことを提案して来たはずだ。売れなくなる車に開発投資するよりも、市場が要求する車にシフトしましょうと何度も何度も提案してきたはずだ。その声はなぜ採用されなかったのか。
自動車会社の経営陣が、もっとも利益率の高いガソリンがぶ飲み車を諦められなかったからであろう。そして、多分、間違いなく、その経営陣の方針の後ろには、大株主様のご意向があったわけだ。明日の事業よりも今日の利益という。
アメリカの製造業は極端な例としても、今日のメーカーのお家の事情は、先進諸国においては、どっこいどっこいであろうから、環境の変化への対応はどうしても鈍い。会社は株主様のものであるという弊害が多かれ少なかれ、どこの会社でも見られるのだろう。経営陣は、前方の市場を眺めることよりも、後ろに控える株主様会議(社外取締役会 board of directors)に意識が集中しているので、市場の動きへの対策はすべて後手後手に廻ることになる。
会社の中では、上司のご意向ばかり気にしている人は、目が上についた「ヒラメ」に例えられるが、経営陣は後ろに目がついた変な魚ということになろうか。企業は株主の所有物、株価至上などの金銭絶対主義に操られた新種の魚というわけだ。
従って、これらの経営陣の、変化に対応するデシジョンは、市場あるいは消費者が動いて初めて採用するところとなるから、会社を経営しているのか墓穴を掘っているのかわからなくなる。市場の動向を早くから読みきり、対策を提案してきた商品企画や事業企画スタッフにとっては、たまったものではなかろう。日本では、居酒屋で「ドアホ、トンチキ、アメリカかぶれ、株主に尻尾を振るポチ」なんて悪口を並べて愚痴ることになろう。アメリカでは車で帰宅しなければならないから、日本式発散はできないので、同類のスタッフはどうしているのだろうか。ご同情申し上げる。
多くの会社の行動がこのように、目前の利益最優先のために鈍くなっていることは、そうではない会社、戦後から40年までの時代の会社の身のこなしをまだ維持している会社にとっては、競争相手を出し抜く願ってもないチャンスを意味する。
激変する環境は、自分の頭で考えられ、アメリカ式マネー最優先症候群に犯されてない会社にとっては一大チャンスとなる。そして、その頭と素早い決定力があれば、新興の工業国、中国・インドの一歩も二歩も先を走れることにもなろう。
(08.05.10.篠原泰正)