私がもし事業部の責任者だったら確かに、実績もない見知らぬ人間に、多額の費用を負担して、しかもその人間の自由に任せて研究開発活動を依頼するなどという馬鹿なことはしない。そしてもし、お金を負担してまでやってほしいというような、そんなにいいテーマを事業部の私がもっているのなら、私は何もそれを人の手に渡すようなことはしない。私なら新しく適任者を外から雇ってきてでも自分達の部門でその開発を行なう。その方が私が自分でコントロールできるし、テーマを担当する人間に必要な事業部情報を容易に的確に与える事もできる。さらに、異なった部署間でどうしても多少は起こる縄張り争いをなくせる。だからその方が間違いなく早く、少人数で開発できる。
その上成果が出れば自分達の部門の成果である。誰だって手柄はたてたいのである。事業部が、自分達の見つけた面白くて可能性の高いテーマを持っているとして、そのテーマを自分達がすべての費用を負担した上で、わざわざ自分達がコントロールできない中央研究所にやってくださいと頼んでくる可能性は例え彼らがいくら忙しくても限りなくゼロに近い。事業部だって研究開発の機能を持っているのである。そして、彼らだって成果を上げなくてはならない。彼らだって必死になって良い研究テーマがないか探している。
そういうわけで、もし事業部が自分達ですべての費用を負担してまで中央研究所の研究開発テーマのスポンサーになるとしたら、そのテーマは自分達事業部が見つけたテーマではなく、中央研究所が自分達で見つけて事業部に対して提案してきたものであるはずだ。しかもその上彼らが、そのテーマが事業部にとって魅力があり、成功確率がかなり高いことを納得した時だろう。もちろん成功確率が高いかどうかは、過去の中央研究所の実績で判断する。
これで、事業部スポンサー制というのは中央研究所が事業部からテーマを貰ってきて研究するのでは駄目で、事業部が喜んでスポンサーになりたがるテーマを中央研究所が自分達で見つけなければならないこと、そして信用して任せてもらうためには目に見える実績を積まなければならないことが分かっていただけたと思う(クリヤビユ-)
本日の「日経産業新聞」にゼロックス社のR&D体制に記事が載っていた。見出しは、「研究課題」を公募、若い種(シ-ズ)を拾い上げる。この成果が実り昨年には米国で584件の特許を獲得した。この2年間で3割も増えたそうだ。(此処まで記事)
特許件数が増えても日本企業のような改良、応用技術のオンパレ-ドではなく将来の商機を見すえた新しいコンセプトの技術特許である。しかも権利を明確に主張しているから日本企業にとっては脅威となろう。これまでのように日本メ-カ同士の談合解決はできない相手である。ゼロックス社は過去の失敗は繰り返さない(矢間伸次)