地震と台風と津波が一緒に来たような厄災を、英語ではパーフェクト・ストーム(perfect storm)というらしい。
世界の食糧事情は、今やまさに、この「パーフェクト・ストーム」に襲われているといっていいだろう。この1年で食糧価格は40%上がったという。2005年までの30年間において食糧価格は4分の1下落したことを見れば、この値上がりのすさまじさは良く理解できるだろう。2005年から見れば75%の上昇となる。小麦の価格は前年比の倍になり、とうもろこし(maize)や大豆(soya)もこれまでにない値上がりを示している。
この値上がりの原因には何があるのだろうか:
(1)気象異変のひとつであるかんばつ(droughts)や洪水(floods)によって生産高が落ち込んでいる
(2)人間や家畜に食べさせるより自動車に食べさすことを優先したバイオ燃料(biofuels)に穀物を回した(近年まれに見るアホな政策の一つ。人間がいかに馬鹿かという証拠でもある。)
(3)石油価格の高騰により運送費やらなにやらも高くなった
(4)中国やインドで(少し)豊かになった家庭が増えて肉類の需要が増え、その家畜の餌への供給が増えた
これだけファクターが重なっているからパーフェクト・ストーム。
そして、大正時代の「米騒動」を思い出させるような食糧暴動(food riots)がこの半年ばかりの間ですでに、Morocco, Yemen, Mexico, Guinea, Mauritania, Senegal, Uzbekistanで発生している。貧しい国の民衆は収入の50%から80%を食糧購入に当てる有様になっている。
そして、国連の「WFP: World Food Programme」はこれまで金持ち国からの寄付金で世界の78カ国の合計7千3百万人に食料援助をしてきたが、食糧価格の値上がりで今年はとてもカバーできないという。この73Mという数は全員ではなく、本来援助が必要な人の10%に過ぎないという。その10%もカバーできなくなる、という話だ。2008年の予算は29億ドル(約3千億円)しかない。ちなみに日本の国防予算は年間420億ドル(4兆2千億円)であり、USAのそれは天文学的数字の6千2百億ドル(62兆円)である。
日本ももちろんこの食糧価格上昇の影響を免れない。中国ギョーザ事件の教訓とあいまって、食糧自給自足の動きが本格化することが期待できる。価格はこれまでの3倍は覚悟しなければならないだろうから、農家の経営もこれで楽になるはずである。米もいくら作っても余分はない。日本人が食べきれない分は政府買い上げで世界に回せば良い。温暖化のお蔭で北海道の稲作も増えるだろうから、農業がこれからの日本でもっとも先行き明るい産業となろう。(貧しい家庭には政府が食糧購入の補助金出せばよい。日本の国力から見ればたいした金額ではない。)
さらに、世界の水不足を考えれば、食料の輸入はやめるべきである。輸入するということは、その海外の生産地の水をつかうことを意味する。水が豊かな国が、水不足で深刻な国の水をつかう手はあるまい。金出せば文句あるまい、という考え方は「成金」の考えであり、品質の高い人間の言うことではない。
食糧自給率40%という日本の惨めな状態は政府がアホというだけでなく、消費者がバカだから生じている。農家(あなたの両親、親戚、知人でもある)の経営が成り立たないまでに、出来合いの(加工された)、誰がどこでどのように作ったかもわからない食品を、ただ安いからといって喜んで買ってきた結果である。自分で自分の首を絞めてきたわけだ。
食糧価格の値上がりは世界の10億、20億の人々が飢えに晒される途方もない大問題であるが、日本にとってはもう一度「農業大国」に戻るいいチャンスでもある。まず自給率100%をめざし、次に安い価格で世界の貧しい国々に供給する事をやるべきであろう。あるいは、世界の事情は待ったなしだから、並行して行うべきだろう。
そして、それだけでなく、日本のありとあらゆる農業技術(ノウハウも含めて)を、世界のお役立ちのために、わかりやすい仕様書(文書)に仕立て、必要とする国々に無償で提供すべきであろう。明快な日本語で書いてくれさえすれば、それを英語に翻訳するのはいとも簡単な作業である。そのような翻訳を担当できる人材はいくらでも居る。元をわかりやすい日本語で書いてくれさえすればよい。地方自治体に何とかお願いしたい。道路はもういいから、農業の知恵をまとめてくれ。お願い。
(08.02.26.篠原泰正)