ヨーロッパの人たちが「魚」に目覚めてから、魚資源という話はますますややこしくなった。誰が欧州人に魚の美味を教えたのか?マグロのトロがイケルと教えたのは誰だ?答えは日本人である。そして、事態をますますこんがらがらせたのは、欧州の人たちが魚に目覚めたときと同じにして、グレート・チャイナの一大躍進が始まったことにある。
40年前、私がスペインのマドリドで学生風フーテンとして遊んでいたとき、どう数えても料理に出てくる魚の種類は4種類しかなかった。カラマリと呼ばれるイカの輪切りの天婦羅(?)は魚に数えないとして、たった4種類である。そのどれもが、どうやら北のビスケー湾あたりで獲れたものらしく、しかも料理の方法もシンプルで、少しデカイ魚は輪切りでお皿に乗っていた。最初これを見た時には一体何であるか判別に苦しんだが、白身の大型パイナップル風の真ん中に骨があるので、こいつは輪切りだ、とようやく気がついたくらいである。
当時、世界の海で「乱獲」といえば、お魚大好き民族である日本人、と相場は決まっており、名指して非難されたものだ。幸い、魚は「動物」とは分類されていなく、恐ろしくも騒がしい欧米の動物愛護協会から攻撃を受けることはなかったが、日本人はなぜこんなに魚にこだわるのか、理解は得られなかったようだ。何しろ、ロンドンにもマドリドにも一軒の日本料理店もなかった時代である。
メキシコへ渡る途中に、乗っていたオンボロ貨客船が立ち寄ったアフリカ沖合いのカナリー諸島では、ここを基地としての日本のマグロ漁船の活躍が注目を浴びていた。地球の果てから小さな漁船で(大きくとも200トンぐらい?)やってきて、血眼になってマグロ、マグロと大西洋を走りまわっているものだから、島の人々もビックリ、だったのだろう。
そのアフリカ沖の漁場で魚が消えつつあるという。アフリカを横から見た頭蓋骨と眺めれば、後頭部にあたる沖合いがここでの対象である。北から国の名前で数えれば、Morocco, Western Sahara(旧スペイン領サハラ), Mauritania, Senegal, Guinea-Bissau, Guinea, Sierra Leone, Liberiaと並んでいる。これより南東はギネア湾岸諸国となる(Galf of Guinea)。
セネガルの首都ダカール(Dakar)はパリ・ダカ自動車ラリーで日本人にもおなじみの名前であろう。(今年はテロの危険とかでレースは中止されたそうだが、上に上げてきた諸国はそれこそラリーどころの話ではなく、明日どうやって食べるのか、の状態と報じられている。食べるものも無い人々の前で自動車レースも無いだろう。)
先月(08年1月)14日付けで、「Empty Seas」と題して、ニューヨーク・タイムズが、セネガルの漁民の窮状を伝ている。欧州と中国とロシアからの船団が、彼らの目の前の海から根こそぎ魚を獲っていってしまっているという。記事の中に日本の名前がなかったので少しだけホッとしたが、大掛かりにシステマチックに世界の海から魚を取り巻くっているのは工業化先進諸国であるから、たまたま日の丸の船が記者の目に止まらなかっただけかも知れぬ。そして、こういう大規模魚取り手法は日本が先鞭をつけたものである。
欧州は、北海やバレンツ海(Barents Sea)で魚を獲り尽くしたのか、このアフリカ西海岸沖合いに雪崩込んで来ているらしい。お魚に目覚めた金持ちのお客が欧州にたくさんいるからである。ロンドンやパリにゴマンとあるスシ・バーにマグロやエビやタコを届けるためである。
魚の乱獲(overfishing)は何もこのアフリカ沖に限られた問題ではない。国連の食糧・農業機構は世界の魚の75%は乱獲かあるいはとり尽し状態にあると警告している。
Worldwide,
the United Nations Food and Agriculture Organization
estimates that
75 percent of fish stocks
are overfished or fished to their maximum.
(上記N.Y.T記事)
ECの2002年の報告でも、セネガル沖の魚はほとんど絶滅状態に向かっていると述べられているようだ。
A 2002 report by the European Commission
found that
the most marketable fish species off the coast of Senegal
were close to collapse
--essentially sliding toward extinction.
石油大好きのアメリカ人は、自動車に食わせるガソリンがなくなると気が狂うかも知れぬ。お魚大好き日本人は、魚が食卓から消えたら、うつ病になるかも知れぬ。世界の海で獲る魚はいなくなる。魚牧場で育てて食べるしかない。こうなりゃ、関門海峡と豊後水道と紀伊水道を海底から水面までカバーするドデカイ網で仕切って、瀬戸内海全部を養魚場にするしか手はないのではなかろうか。ついでに、3本もある本州四国連絡橋も、ガソリンが消えていけば通る車も閑散とするだろうから、橋を有料の釣り場に開放すればどうだろう。もっとも、釣り糸の長さがどれだけ必要かは計算していないけれど。
(08.02.01.篠原泰正)