生徒・学生の頃、1950年代後半から60年代前半、日本の漁船の遭難がよくニューズになっていた。水揚げを増やすためにどうしても無理をしてしまい、当時は船も小さかったのでシケに会うとやられることが多かったようだ。中でも危険なのは北洋であり、特に冬場のオホーツク海(Sea of Okhotsk)での遭難が多かったように記憶している。
そのオホーツク海の東側のカムチャッカ半島(Kamchatska Peninsula)のそのまた東にあるのがベーリング海(Bering Sea)である。この海の東と南はアラスカ半島(Alaska Peninsula)から細長く伸びて連なるアリューシャン列島(Aleutian Islands)で囲われている。アリューシャン列島は、先の太平洋戦争の時に第一番に玉砕した(昭和18年-1943年)アッツ島(Attu)の名で、われわれ日本人には馴染みが深い。なお、右隣-アメリカ側-のキスカ島(Kiska)からは「奇跡」の撤退が成功した。(当時は撤退と呼ばずに「転進」と言った-官僚的ごまかしの一例)
話が逸れそうになるから戻すと、このベーリング海の北側はシベリアとアラスカの間にあるベーリング海峡(Bering strait)で北極海につながっている。北極海の海が温かくなったためか、あるいは太平洋の水温が上がったためか、このベーリング海の温度が上昇しているという。冬場、この海に出動した帝国海軍の駆逐艦の上部構造が、波のしぶきなどで見る間に凍りつき、トップ・ヘビーとなって転覆のおそれも出たような寒い海が温まっているという。
米国の魚の水揚げは、領海内(in U.S. waters)でのそれの半分は、このベーリング海からという。その他世界の海からの漁獲を全部合わせた内でも、三分の一はここからという。その大事な米国の魚場(fisheries)で魚が減っていると、今月発表された南カリフォルニア大学(University of Southern California)の調査報告は伝えている。
その減少の大きな原因の一つは、この海に住む(漂う?)植物性プランクトン(phyotoplankton)の種類が変化して来ていることに求められている。この海が魚の宝庫であったのは、大型の植物性プランクトン「diatoms」(なんと呼ぶのか分からん:ダイアトム-2個アトム?)のおかげであったという。大型ゆえに大型の動物性プラントン(zooplankton)の餌になり、この大型動物性プランクトンは大型の魚の餌になってきた。そして、その大型の魚を、生物の中でもっともどうもうで強欲な人間様が食べるという「food chain」が成立していたわけだ。
この大型「diatoms」がずっと小さな植物性プランクトンに押されて減っているという。これが減るということは、大型の魚の食いものが減るということになり、人間様の食い物も減ることにつながる。
さらに、小さな植物性プランクトンはせっせとCO2を吸収してくれるが、海面近くを漂っているので、死ぬと分解してせっかく貯めたCO2をまた大気中に放してしまうという。それに比べると、この大型の「diatoms」君は、体が重いから死ぬと海底にまで沈み、自然のCO2貯蔵庫となってくれているらしい。だからこの「diatoms」君が減ると、魚が減るだけでなく、大気中のCO2の吸収者が減ることを意味する。*追記:diatoms の殻(shell)は大変重いので海底に沈むのだそうだ。
(The shells of diatoms are so heavy
that
when they die in the oceans
they typically sink
to watery graves on the seafloor,
taking carbon out of the surface waters
and locking it
into sediments(沈殿物) below.)
産業革命以来化石燃料を燃やして大気中に吐き出してきたCO2の半分は海洋の中に蓄積されて来ているという。
"About 50 percent of fossil fuel emissions
since the industrial revolution
is in the ocean."
「diatoms」君がいなくなると、鮭もかつおもマグロも餌が無くなり困るだろうけれど、人間にとっては食卓の問題だけでなく、もっとも厄介なCO2問題に直接影響するから、まさに踏んだり蹴ったりである。大洋の温度がチョット上がっただけでこれだから、この地球上の生態系を壊すとどんなことになるかをベーリング海は語っているかのようである。
(08.01.26.篠原泰正)