石油亡者にとっては、北極海の氷(Arctic sea ice)が溶けると石油探鉱がやりやすくなるので大歓迎だろうけれど、そこでの氷の融解は地球上の気象異変を回帰不能までに解放してしまうので、とてもじゃないが石油どころの話ではない。
2007年の夏の氷は、溶けずに残った周辺部での厚さがなんと海面下1メートルしかない薄さになっていたという。これでは太った白熊が飛び乗っただけで割れてしまいそうである。こんなに薄ければ冬場の凍結もたいして厚くならないだろうから、次の夏には消えてしまい、ますます氷の面積は縮まって行く。後5年の内に夏場の北極海は一面の青になるとの予想も出ている。
地球のてっぺんで氷が溶けるとなぜやばいか。大きくは懸念事項が三つある。一つはシベリアとカナダ・アラスカの永久凍土が連鎖反応で溶け出すおそれがあることと、もう一つは海洋の真水の割合が増えることによるさまざまな海洋異変である。さらにもう一つは、グリーンランドの氷の溶け方が加速されることである。この三つは地球の自然バランスに致命的になる。
さて、その永久凍土(permafrost)である。これが溶け出すと、自然環境にもっとも怖いメタンが大気に放たれることが、最大の懸念事項となる。メタンは二酸化炭素の20倍以上の温室効果を持っているとのことだから、地球をぐるりと取り巻いているCO2というビニールの厚さが何倍にもなり、温室(ビニールハウス)の温度は急激に上がることになる。このメタンはこれまで凍結して氷と土の中に閉じ込められていたわけだが、一たび解放されたらもうアカン。人間が懸命に(やってないか?)CO2の排出を抑えても、メタンが暴れ出したらそんな努力はあっという間に相殺され、そして現状を越えていくことになるだろう。
人類の一員としては、メタンが何とか地中に留まってくれることを祈るばかりである。何とか防ぐ手は無いものだろうか。日本の知恵を発揮することはできないのだろうか。シベリアとカナダ・アラスカという膨大な土地をもう一度人為的に凍らせる方法はもちろん無いし、吹き出たメタンを集めて地中深くに埋める方法も無いだろう。お手上げなのだろうか。
日本の科学者達は、この永久凍土融解という危険性について、何を考えているのだろうか。時間をかけて調査しているわけでもないので、何がどこまで論議されているのか私にはまったく不明だが、何かアクションは起こされているのだろうか。それとも、「グリコや!」(お手上げ、という意味)ということで眺めているだけなのだろうか。
6千5百万年の昔、恐竜が絶滅したのは、このメタンが原因ではないかという説をどこかで読んだ。(ファイルを探したが見当たらない)。もし本当なら、寸法はずっと小さいが獰猛(どうもう)、強欲、残忍という面ではティラノザウルスにも負けないほどの人間様も今回は危ういことになる。
日本の知恵を世界にお役立ちさせるためには、どの分野で緊急に何をしなければならないかをできるだけ正確に知ることがまず第一歩である。火事がどこかを知らずに消防車を出動させても意味無い。一方で、北極圏のシベリア・カナダ・アラスカが火事になりそう、とまではこれまでにも何回か書いてきたが、この火事(凍土の融解)はいったん火がついたらポンプで消せるようなものでは無い。
観念して、真言宗に帰依して、鎌倉の昔、蒙古が攻めてきたときのお公家さんのように、「怨敵退散、メタンよ出るな」と護摩を焚いて祈祷するしか手は無いのか。
北極海の氷が溶けると、白熊が絶滅すると心配するのではなく、人間様が危ういことを知らねばならない。知ったところで打つ手が無いのなら知らない方が幸せかもしれぬが。
(08.01.23.篠原泰正)