特許仕様書(明細書)は取得した特許権を証明する権利書である。特許権は法律で保障された権利である。そして、ここから誤解が生じる。権利書であるから法的文書であるという誤解が。いや、正確にいえば、法的文書であるから法的に記述しなければならないという誤解が生じる。あるいは、その誤解をいいことにして、特許仕様書は法的な文書であるから難しいものであるという印象を与えるべく努めている人もいるようだ。
簡単にいえば、法的権利書であることと、法的に記述するということはまったく相関関係はない。さらに、いえば、法的に文章を書くということも時代遅れの観念であり、難しそうな法的世界においても、誰にでも理解できるように平易に記述することが欧米社会では当たり前になりつつある。
特許という権利で守る対象の発明は技術の世界の事項であり、その発明技術を記述した特許仕様書は、したがって技術文書である。法的な部分は権利を主張した(クレームした)部分だけである。一つの技術は説明するのは難しいように思えるが、できるだけわかりやすく表現することは可能であり、またそのように努力せよと教えられているものである。
分かりやすく、すなわち読む人が理解できるように書く事は、努力すれば達成できることである。したがって、分かりやすく書かない人は、その努力を怠っている人、読む人への思いやりに欠けた人ということになる。あるいは、頭脳明晰でないため、どうしても分かりやすく書けない人もいるかもしれない。そういう人は、論理的に筋道立てて説明するという基礎訓練を受ける必要がある。
ともかく、特許明細書は「権利書」であるから法的要素と技術的要素が交じり合った、特殊な文書であり、素人の手にはおえないものである、とばかりに、わざと分かりにくく書くなんてことがいまだに行われているのなら、それはまことに不気味な世界という印象を与える。
どうせ仕事をするのなら、明るく楽しく、他者への配慮を忘れずに優しいこころでやろうではないか。読む人に苦痛を与えることで「快感」をえるような人は、どこか別の世界で仕事をしてもらいたい。あるいは、世の中には、サド・マゾ愛好家くらぶがいくつもあるようだからそこで遊ばれるのもいいのではなかろうか。
(07.09.19.篠原泰正)