昔は特許部と呼ばれていて、いつの間にか「知的財産部」という格好良い名前にかわったこの組織は、多くの企業で法務部門に所属しているらしい。なるほど、特許侵害の争いなんぞが発生すれば、これは確かに法務部門の出番であるが、あるいはマイクロソフト社のように常時何十件も訴訟を起こされている案件を抱えているような会社では、毎日毎日法廷の争いに忙しいから、特許と法務(リーガル・マター)は切り離せない。
しかし、特許の中身は発明技術だから、これは技術部門の管轄であることが素直なのではなかろうか。技術部門は「技術戦略」を持っている。自社製品で稼ぐための「戦略」である。あるいは製品だけでなく、自社技術を他者にライセンスして稼ぐ「戦略」を持っている会社もあるだろう。いずれにせよ、技術戦略はその会社の命運を握っている大事な「策」である。
特許というのは、その自社製品を市場で守るために存在する。あるいはライセンス商売を確かなものにするために存在する。特許を取ったからといって製品の売り上げが増えるものではなく、基本的には特許は「防衛」の方法であろう。それであれば、市場に出していく製品、10年先も見越しての研究開発の成果としての製品の後に、ぴたりと密着して特許が存在しているべきであろう。すなわち、技術戦略の表の成果が製品とすれば、その技術戦略の裏面にぴたりと特許戦略が張り付いている形になるはずだ。いうまでもなく、技術戦略と特許戦略は同列の別物ではなく、技術戦略がまさしく全軍の「戦略」であるとすれば、特許戦略はその下にあって、「特許」という方面を受け持つ「方面戦術」とみなされる。ある戦略に基づいて、ある方面(地域)でどのように戦うべきかを策定するのは「戦術」レベルととらえられる。つまり、シアター(theatre)のレベルである。
このように見てくると、知的財産部が法務部門の管轄の下にあることは、私は不思議でならない。どうみても技術戦略部門の管轄にあるべき存在である。法的争いが生じた時は、確かに法務のスペシャリストが火消しに出動しなければならないが、それは消防署の下に救急車が所属しているようなものであり、中核は技術部門であるはずだ。
技術部門であれば、技術戦略マップ-自社技術がどの分野にどれほど配置されているか、競合会社の配置はどうなっているかなどの、戦場図-の上に自社特許がどのようにあるのかを重ねるのは、それほど難しいことではないだろう。特許戦略マップは技術から離れて独立して存在できるものではない。
なお、戦略マップは戦略を考える上での材料の一つに過ぎず、マップが完成したからといって、それを眺めて戦略を考える人がいなければ、何の意味もないものである。
(07.09.11.篠原泰正)