イギリスという国は色々不思議に満ちた国であるが、40年前、初めてかの地に足を踏み入れた時に驚いたのは、食い物だけでなく、新聞にも2種あって、読む人の階級がくっきりと分かれているという話を聞いたことである。
一方に「インデペンデントIndependent」とか「ガーディアン Guardian」といった高級紙があり、これはエリート層すなわち社会の上層階級が読む新聞で、一方には「サン Sun」とかなんとか、かつてはイエローペーパーと呼ばれていた、大衆のための新聞がある。サンの読者がインデペンデントを読むことはなく、ガーディアンの読者がサンも読んでいることはありえないとのことだ。
そういえば、協業先のイギリスから出張してきた人が、東京での電車での経験として、驚いたと話してくれたことを思い出す。なにかといえば、キチンとした身なりのサラリーマンが裸の女性がグラビアを彩っている週刊誌や大活字のスポーツ新聞を読んでいるのはどういうわけだ、ということだ。日本じゃ誰もが「平等」なのだ、とか勝手なことを言って返事代わりにした記憶がある。イギリスのエリートサラリーマンにとって眼を疑うような光景だったのだろう。
そういえば、40年前のそのとき、イギリスの友人に聞いてこれまた驚いたのだが、イギリスの高等学校では外国語(フランス語とかドイツ語)の学習は選択科目だそうで、しかもその科目を選ぶ生徒は極めて少ないということだった。つい最近の調査でも、EU諸国の内、外国語がなんとかできる人の数ということでは英国は圧倒的にペケであるから、欧州連合に加盟はしたが、教育のやり方はそれほど変っていないのだろう。
イギリスで「教育」といえば、それはエリート階級のためのものであり、国民全体の教育はあまり重視されていないのではないだろうか。より具体的に軍隊にたとえていえば、教養を伴う高度の教育は将校(エリート)に対してのみで、下士官の教育はその職を全うすることができるように職業訓練のみで、兵士に対してはただ命令されたとおり動けばよいという訓練だけなのではないだろうか。
私の偏見に満ちたイギリスの印象は、何しろみるからに教養もなく、しつけもされていない「恐ろしげ」な人が多い国だな、というものであった。UK、連合王国はまことに二つの世界にくっきり分かれた国であり、私のようにごく普通の日本人は、そのどちらの世界にも属していない存在だから(教養はあっても金も地位もない)、相手も扱いに困るだろうし、こちらも居心地が大変に悪い国ということになる。
このような階級社会国家が七つの海を制覇し、大英帝国として世界に君臨できたのは、今でも不思議な気がしてならない。変な国である。
(07.07.02.篠原泰正)