小学生の頃、私のもっともお気に入りの映画は、カリブ海の海賊物(Pirates in the Caribbean ハリウッド製)であった。あまりにも海賊に惚れ込んだものだから、その後中学から大学に至るまでの時期、日本の水軍の歴史や倭寇の歴史にまで「研究」は発展し、社会人になってからも、イギリスの海洋小説、例えばホーンブロワ-提督の物語など読みふけっていたものだ。
大腿骨が二本クロスしている上に頭骸骨が描かれている海賊旗(ジョリー・ロジャー Jolly Roger 陽気なロジャー)は私のお気に入りの図柄であり、ロー石やクレヨンでそこら中にこのマークを描き散らしたものだ。
お気に入りの海賊は、ヘンリー・モーガン(Sir Henry Morgan)、フランシス・ドレーク(Sir Francis Drake)、黒ひげティーチ(Edward Teach)、女海賊アン(Anne Bonny)、そして海賊キッド(William Kidd)などであった。
モーガンやドレイクにサーの称号が被せられているのは、その業績が認められて英国の女王・国王陛下から頂いたもので、そのことが示すように、彼らの主な獲物は、メキシコやペルーで奪った金銀財宝を満載したスペイン帝国のガレオン船であった。
時代は大航海時代(Age of Discovery)の真っ只中、16世紀後半から17世紀いっぱいが最盛期であった。大航海時代は、ヨーロッパが、今に続く、世界の覇権を確立したきっかけであり、中国や日本を除く世界のほぼあらゆる土地を植民地として、富を蓄積していく幕開けであった。
従って、この「発見の時代」に「発見」された土地の住民にとっては、まことに迷惑な話であり、今に至るまでの長い苦難の始まりの時代となった。大昔からその土地に住んでいたのに、なにやらガラパゴス島のオオトカゲと同じような扱いで、「発見された」とはオオキナお世話、であった。
以来今に至るまでの500年、世界は、中国や日本及びその他のわずかな例外地域を除いて、二つの地域、すなわち支配するくにと支配されるくに、あるいは奪う国と奪われる地域に分けられてきた。欧州の植民地の例外は欧州人が入植した(先住民の数がまったく少なかった)地域、すなわちカナダ、アメリカ合衆国、オーストラリア、ニュージーランドであり、これらの国々は独立以降奪う側の陣営に属してきている。
西洋世界、今日では欧米世界が、この地球上の世界を500年の長きにいたって支配あるいは主導して来ることができたその要因はどこにあったのだろうか。なぜなのか。この疑問は、長年、私のテーマのひとつであり、今でも答えが十分に得られたとは思わないのだが、なんとなく分かったような感じもある。
勇猛果敢、獰猛、残忍、一攫千金への飽くなき欲望、長く苦しい航海に耐えられる気力・体力。カリブの海賊(主にイギリス人)の特徴が、500年の支配の源泉の一端を見せてくれているようである。
(07.06.20.篠原泰正)