20世紀の終わりごろ、次なる21世紀はアジアの世紀となる、という論調をあちこちで見ることがあった。20世紀後半はアメリカ合衆国の時代であったということは、大方の人の合意するところだろう。そのアメリカに代わって、今度はアジアだという話だったが、最近ではあまり聞かなくなった。
この予測に対しての答えは、今ならはっきり言える。答えはノーである。中国もインドも、今、文字通り黒煙を上げて近代工業化社会の構築に励んでいるが、いかんせん、開始するのが遅すぎた。石油と水がネックとなって、現在の急成長は極めて近い内に、急制動がかかるのではないかと私は見ている。さらに、地球の「Climate Change」(天変地異と言う言葉が一番あてはまる)をなんとか緩やかにするために、世界の世論がこの二つの大国に圧力をかけることも、もうすぐ(2-3年以内に)はじまるだろう。もう少しゆっくりやってくれという圧力がかかる。
石油と水といったが、間違いなく「水」が成長の最大ネックになる。石油は、石炭という代替資源もあるが、水に替わるものはない。この水は、三方から攻められて不足していく。一つは、ヒマラヤの氷河の衰退に原因する河川の流量の減少であり、一つは降雨の変化であり(これまでの地域に降る雨が減る)、一つは地下水の枯渇である。気象異変と工業用水、農業用水の使い過ぎによる現象が同時に襲ってきているから、打つ手はほとんどない。
華僑と呼ばれる人たちは、何百年も、世界ではいつ何時何が起きるか分らないという認識の上で、たくましく生きてきた存在だから、当然のことながら、世界の動きの情報に通じている。同胞が世界中にいるから、多分世界でもっとも質の高い「Intelligence Network」を持っているとみなしていいだろう。イスラエルのモサドもアメリカのCIAもかなわないぐらいの。
その華僑が、本土中国への投資を引き揚げるような動きをみせたときには、こちらも逃げ出した方がよいだろう。中国でビジネスを展開している企業は、油断なく華僑の動きをウヲッチし続けるべきであろう。
いずれにせよ、21世紀最初の4半世紀は、20世紀とは異なり、誰の世紀ともいえない、全員で地球と人間の存続を図らなければならい時代となるだろう。「大帝国」という存在はもう過去のものとなったと考えた方がよい。21世紀はアジアの時代であるというものの見方は、20世紀の考え方を延長しただけのものであり、もうそのような見方、考え方は通用しない。
水は生物にとってのエネルギー源だから、がたいが大きければ大きいほど大量に必要とする。13億とか12億という国民の数が、水を前にしては大きな障害となる。さらにこれに石油を加えると、二つのエネルギー源の供給があやしくなってくると、がたいの大きなものほど影響が大きくなる。人間の数だけでなく、国土の広さもそのときにはマイナスの要因となる。
この見方に従えば、石油が不足してきたときにまっ先に影響を受けるのは、国土の広いUSAと見ることができる。石油が永久に存在するという空想を前提にして社会のシステムを組み上げてきているから、そのエネルギー源があやしくなると、それこそ身動きがとれなくなる。
大国への投資は、極めてリスキーであるという見方が、これから常識となっていくのではないか。21世紀は、誰の世紀でもなく、人類全体が生存をかけての世紀となるだろうから、20世紀までの見方も、考え方も、もうそのままでは通用しない。世界の覇権が西洋からアジアに移るだろうなんて考え方は、20世紀の考え方そのものであり、もはや何の有効性もない。
(07.03.30.篠原泰正)