カリフォルニアのハイウエイをレンタカーで不器用に走っていて、隣に18輪(eighteen wheels)と通称される馬鹿でかいトレーラートラックに並ばれると、いささかびびったものだ。
18輪とはタイヤの数がそれだけあるからだ。ほんまかいな、と実際に数えてみるとたしかにあった。エンジン運転席部分で6輪、牽引しているトレーラー部分の前が4輪、後ろが前後に2列あるから2X4で8輪となる.
題名は忘れてしまったが、田舎のハイウエイでまっ黒な18輪タンクローリーに襲われる乗用車の運転者の恐怖を描いた映画があった。スピルバーグ(Steven Spielberg)のデビュー作ではなかったかと記憶する。映画の主人公になれるぐらい、この18輪は迫力があることになる。いささかの恐怖感を覚えるのは自分だけではなく、一般的な感情なのだと言うことをこの映画の存在が示してくれている。
この18輪がハイウエイの王者の如く行きかっているのを見ると、これがアメリカの内陸輸送を支えているのだいうことが実感できる。これが巨大スーパーウォルマート(Wal-Mart)他を支えているのだということがよくわかる。世界中から運ばれ、海と空の港に陸揚げされた「商品」がこの18輪によって、48州の隅々まで運ばれているのだ。
この18輪の図体を見れば、それが石油をがぶ飲みしながら走り回っていることは容易に想像できる。でかいことはいいことだ、という信条でこの100年生きてきた国が、この18輪の燃料消費率を気にするわけがない。また燃費率ではナンバーワンのホンダといえどもこの18輪の製造までは手をだしていないから、エンジンは限りなくでかく、燃料タンクは限りなくでかく作られていることになる。
石油の入手が日々困難になっていったら、アメリカはどうするのだろうか。18輪を走らせるコストがめちゃくちゃに上がったら商品の採算が合わなくなるだろう。どうするのか。多分、どうしようもない。石油が止まったら、アメリカは酸素呼吸器をはずされた患者のように、ころりと行ってしまうだろう。「輸送」という近代経済の動脈をほぼ100%近く石油に頼っているシステムであるがために、その源の石油がアウトになれば、即日「死」の宣告が下されることになる。
65年前、日本はアメリカから石油の蛇口を閉められた。悪い子が教室から出されて、授業がおわるまで廊下に立たされたようなものだ。色が黄色い成り上がりのくせに白人の真似をして帝国主義ごっこなんかに交じってくるから、いじめにあったわけだ。その結果どうなったかは、安倍新首相以外は、歴史家でなくともフツーの日本国民なら誰でも知っている。
USAは毎日20Mバレルも石油を消費している.国内生産は1970年から減り続け、いまや5Mぐらいがせいぜいとなっている。残り15Mは外国から買ってくるしかない。その外国には「お友達」がどんどん減っている。65年前の大日本帝国の如く、米国は世界から孤立し始めている。とりわけ、最大の供給源である中近東諸国の国民を、変なちょっかい出して怒らせてしまったから、自分で自分の首を絞めているようなものだ。
65年前、USAから、”中国から出て行け”とかつ上げされたときに、こんな怖いお兄さんはとても勝てる相手ではないと、泣く泣く引き上げていれば、あんな騒動を起こさずに済んだろう。中国なんかなくても日本の中だけでそこそこ食っていくことはできたのだから。
なぜ相手が嫌がることをわざわざするのか。大日本帝国が他人様の家へ土足でずかずか入っていって、飯だ風呂だと要求すれば、嫌がられる(憎まれる)にきまっている。中国の人がいくら懐が広いといっても限度がある。アメリカ帝国が他人様の家へ土足で乗り込んで、「君達は民主主義というものがまったく分っていない」とお説教を垂れれば、嫌われるにきまっている。イスラムの人が、いくら、16世紀のレパントの海戦(Battle of Lepanto1571年)で負けて以来、西洋にやられっ放しといっても、ガマンに限界がある。
戦略という面から見れば、米国が取るべき戦略は、必要な石油を確保するために、中近東諸国に、盆暮れのつけ届け、お世辞たらたら、お追従のかずかず、あらゆる「ヨイショ」をすることだった、と私は思うのだが、また、「戦略大好き」国なのだからそれぐらいやってもおかしくないはずなのだが、まったく反対の態度に出てしまった。
なぜなのか.人間も国家も落ち目になるとろくな考えが浮かばなくなるためか。
石油が止まれば世界の中で米国がまっ先に死ぬ。アマゾンの密林の大木はあれほどの巨体なのに根が1メートルぐらいしか地中にもぐったいないそうだ。だから、3年雨が降らなければ全滅するそうだ。アメリカは3年ももたないだろう。社会システムとして、危機対応能力にもっとも適さないシステムにしてしまったのがアメリカである。更に、システムだけでなく、国民の精神においても、国土が見渡す限り焼け野原になるような国内危機に直面した経験がなく、また「落ち目」を経験したことがないので、必ずや大パニックを起こすだろう。
アマゾンとシベリアの大木が倒れてしまうとCO2を取り込んでくれるありがたい存在がいなくなるから、地球の環境はアウトになる。アメリカという大木が揺らぐと、世界の政治と経済はどういうことになるのだろうか。
(06.10.04.篠原泰正)