10年以上前に、米国商務省(DOC: Department of Commerce)配下の特許庁(USPTO)に大きな変化が起きた。特許庁の経営は自分で稼いだ金で賄うこと、という施策が打ち出されたことによる。
以来、USPTOは忠実にその言いつけに従ってビジネスを展開してきている。特許庁の収入は、出願と特許登録の手数料と登録特許の保守費(年金)で成り立っている。
従って、手数料収入を増やすためには、出願数を増やすことが一つの策となる。その数を増やすためには、特許が取得できる分野を広げることが有効な手立ての一つとなる。ソフトウエア特許とビジネスメソッド特許という、うさんくさい分野に特許を広げたのはそのひとつである。もちろんこの分野にまで特許が取れるようにしたのは、アメリカの強い分野を強化するという国策とも合致していた。
もう一つの収入源拡大は、いうまでもなく、特許登録の数を増やすことである。これは特許になりません、とつき返してばかりいれば、出願時の手数料が入ってくるだけだから、庁の経営上望ましいことではない。特許を与えれば、あとは何もしなくとも継続して年金が入ってくるのだから、ことわる手はない。事実、USPTOの収入の3分の1は年金収入である。
この「市場原理」に基づく「特許商売」の結果何が起きたか。
米国特許システムの現状を憂えて、監視のためのNPOを立ち上げた某特許弁護士の見積もりによると、特許が与えられた発明(登録特許)の、少なく見積もっても、半分は本来特許が与えられるべきものではないジャンクパテント(junk patents)ということだ。粗悪製品が市場に氾濫していることになる。
ロクでもない製品を市場に出し続ければ、その販売元はどうなるか。いうまでもなく、評判の著しい低下である。他に良いものを出していても、世間はそれも粗悪の同類とみなすことになるだろう。米国特許庁は多くの人から今、そのような眼で見られるように成り下がってしまっている。売上を伸ばすために製品の品質を落とし、その結果自らの信用と権威を失ってしまったのではないか。100円ショップに並べた方が似合うような米国特許がごろごろとあるということだろう。
また年間30万件を越える出願とそのうちの半分を登録にしている状況を眺めれば、5千人ぐらいの審査官で処理できるはずがないことは、この分野の素人でも判断がつく。まともな審査などしていないと推測するしかない。
USPTOは「コーポレート特許庁」を推し進めて、自らの権威に泥を塗り、特許というものへの市場の価値観を限りなくおとしめていることになる。
(06.6.2.篠原泰正)