「成熟・衰退期」の時代背景(5)
課題を解決するのと、課題を発見するのと、どちらにより高い独創力や創造力が要求されるかは別として、研究開発技術者に求められるのは、「筋の良い研究テーマ」の発掘である。「筋の良い研究テーマ」とは、まだ誰もが気付いていない製品や技術のコンセプト探しであり、しかも自社にとって、それを達成するのが容易であると言う領域を探索することである。
製品は幾つかの技術の組み合わせで出来上がっている。技術には既に知られている既存のものと、まだ知られていない未存のものがある。既存技術には、すでに自社にあるものと社外にあるものに分けられる。では、新製品とは何か。
まずは「既存新製品」である。世の中に同じ製品があるが、自社にとっては新しい製品である場合と本邦初も含める。次は、「技術新製品」である。製品はすでに存在するが、新しい技術によって差別化するもの。おしまいは「新規新製品」である。これは文字とおり、どこにも存在していない新しいコンセプト製品である。いずれにせよ新製品を作り出す大きなキッカケは、すでに存在する技術(類推)の中から新しいコンセプト(融合)を炙り出すことである。
何時でも入手できるたくさんの初期情報を、それがあたかも、コンセプトを生み出すために使える情報だと誤解し、情報を自身で構造化する努力をしていない人があまりにも多い。いくらクリエイティブな素質を持った人間でも、十分に構造化された情報を持たなければクリエイティブではあり得ない。それぞれが構造化した情報を、グループで活用する必要がある。そのためには、グループメンバー全員が、「共有」し、「知的生産ツール」として設置、運用しなければ会社のR&Dは衰退し続ける。
「成熟・衰退期」における研究開発部門の実態は、社会の変化と大きく乖離していた。「やる事がない研究開発者は、ブラブラしているわけには行かない。このままではいずれリストラされる。とにかく身体を動かせねば、ということで、どんな筋の悪いテーマであってもダボハゼの如く飛びついてしまう。そして、やり出したらやめられない金がかかる「実験研究」をやりだす。こうして筋の悪いテーマがたくさん出来る。それをこれまでと同じように根性論でやったところで成果は上がらない。当然お金は湯水の如くかかる」といった具合であった。
しかも上層部は早急な成果を求めた。その目安が、特許の出願件数である。「儲かる特許を出せ!」ということでノルマが掛かる。しかし、儲かる特許がどんな技術なのか誰も分からない。こうして役に立たない「もやし特許」がたくさん出願され、金が浪費された。“下手な鉄砲も数多く打てばそのうち弾も当たるであろう”という「散弾特許の時代」、あるいは「散々特許の時代」であった。
「調査研究」で筋の良いコンセプトが見つかるまで「実験研究」を進めないという社内文化があれば良いが、身体を動かす「実験研究」が評価され、机上での「調査研究」は軽視、あるいは遊んでいるという風潮すらあった。「調査研究」は「実験研究」に比べたら大した金額にはならない。たかが知れている。それに「調査研究」ならば何時でも中止はできるし何回もやり直し、繰り返しが効く。しかも、誰もが気づいていないから慌てることはなく、じっくりやれるメリットは大きい。(発明くん 2019/09/24)
【メモ】週間ダイヤモンド(2019/09/28):問題解決とアイデア発想に役立つ「論理と創造」。この特集記事で様々な創造的思考法が紹介されていた。その中で野球の大谷翔平選手が高校時代に活用したことで話題になった「マンダラート」があった。この創造技法をソフト化したのが「メモダス」で、無料開放している。
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