「成熟・衰退期」の時代背景(3)
現場の研究開発技術者たちが使える「知的基盤」を構築するには関心情報(初期情報)の収集だけでは役に立たない。研究開発技術者たちが持つ専門知識やアイデア(思いつき)などの創造プロセスに関する情報も入力し、メンバーが「共有」できる社内文化がなければ成り立たない。
R&D部門における「知的基盤」の構築は、重要課題である。しかし問題は、「知的基盤」へ蓄積されていく情報(データ)の「構造化・再構造化」である。つまり情報の「構造化・再構造化」は、研究開発技術者たちの負担が増えるということで否定されかねない。しかし、研究開発技術者たちの知恵によって作られた「知的基盤」は、自社だけしかない他社が真似のできない人工頭脳(AI)である。このAIが、研究開発技術者たちの発想や視点の転換を促す支援ツールとなる。即ち、R&D部門の「知的基盤」は、研究開発技術者たちの創造活動(知的生産活動)に欠かせない「プラットフオーム(知の生産装置)」である。
先人たちは、自ら情報を「収集・分析・解析」し、それを元に新たな情報を創造して自分の仕事に生かしてきた。情報が膨大になっている現代でも、そのことは変わらない。幸いにして、自分に関心ある情報を個人で入手する強力な手段が発達し、誰でもが、どこからでも全世界の関心情報が入手できる環境にある。この恩恵を効率よく利用し、自分の創造プロセスを加えながら自分たちの人工頭脳を育てることも楽しかろう。
研究開発技術者たちの創造力をメンバーで共有することができれば、R&D部門(組織)の創造力(知的生産)は格段にアップできるはずだ。しかも、先人たちの優れた創造力を後輩に伝えることができるから、後輩は、先輩の創造力に磨きをかけて、よりすぐれた新しい創造力を効率よく自身のものにできる。しかも先人たちの知恵、記憶が会社から消えていく問題も解消することが出来る。
ここで「研究とは、創造力とは」を考えてみる。植田氏ら(東京大学大学院総合文化研究科)は、研究及びオリジナリティーについて以下のように述べている(「研究開発マネジメント」誌、1998年9月号)。
研究とは、(1)初期情報(先行研究・事例・製品など)に、実験・観察・思考を繰り返しながら(2)新たな情報を付加し、足りない情報を補っていくプロセスである。オリジナリティーの高い創造的研究や新製品の開発の鍵を握るのは(3)発想の転換である。発想の転換は以下によってもたらされる。(A)視点の転換(B)類推(C)予期せぬ発見への注目である。
つまり創造力とは、(1)初期情報をもとに(2)価値のあるコンセプトを、(3)発想の転換をして作り出す力である。発想の転換を促すものは、情報の「構造化・再構造化」にある。つまり、関心情報を「複数の視点で見る、新しい視点を加える、古い視点を捨てる、角度を変えて見る」ことである。(発明くん 2019/09/18)