ー特許調査の知的基盤(インフラ)を構築し、繰り返し調査の無駄をなくすー
いま、企業が抱えている問題は、会社から記憶力が消えていくことである。研究開発(R&D)部門の知的基盤とは、先人たちが会社に残した記憶、即ち無形の知的資産(知識・知恵・技能・技術等)を「共有・活用・伝承」する「情報インフラ」である。つまり、効率良い研究開発が出来る環境(基盤)作りである。その投資は、筋の悪い無駄な研究テーマを続ける投資に比べたら、たかが知れている。しかし多くの日本企業は、その投資を怠ってきた。「黎明・成長期」での研究開発は、課題には困らず、やる事が沢山あった。その課題は上層部から与えられ、技術者が自ら課題を生み出す必要が無かった。技術者にとって良き時代であった。しかし、
1.多くの人が、アイデアやコンセプトは、準備や努力もなく、無償で生み出されるものと誤解していた。
2.何時でも入手できるたくさんの情報を、それがあたかも、コンセプトを生み出すために使える情報だと誤解していた。
3.情報が活用されるためには、それが入手され、分析され、整理され、記憶に残す仕事を排除していた。
4.どのような情報でも、それを分析し、整理加工しなければ役にたたない、という当然の道理を無視していた。といった弊害を残した。
「成熟・衰退・変革期」は、課題を解決する能力は勿論のこと「筋の良い研究テ-マ(*)」を発掘することが求められている。しかし、いま最もクリエイティブであるべき世代は、相変わらずの旧来のシステム・プロセスと制約の中で、情報の洪水と時間の不足のために、新しい方向を探り、自身の創造力・独創力を発揮するチャンスを与えられていない。こんな状態では、日本企業の将来は危うい。
研究開発とは、初期情報(先行研究・事例・製品など)に「実験・観察・思考」を繰り返しながら、新たな情報を付加し、足りない情報を補っていくプロセスから発想想の転換を促すことである(引用:東大大学院総合文化研究科植田グループ)。つまり、様々な調査で得られた多種類、多分野の情報を、どこかに集め、それを融合・統合させ、いろんな視点から覗き込める構造化されたデータベース(知的基盤)の構築と活用である。
商用データベースは課題解決調査には有用だが、類似技術の特許調査を、その都度ゼロから同じことの繰り返しでは幾ら時間があっても足らない。このような場当たり的な効率の悪い特許調査は止めるべきである。もちろん課題探索調査に使うには、そのままでは無力であるが。
ここで提案している「知的基盤」は、課題解決調査にも課題探索調査にも使える。このデータベースで、技術者たちの創造力が共有できれば組織(メンバー)の創造力は更にアップする。このデータベースの構築は、社内の技術を良く知った経験豊富なベテラン技術者が、クリエイティブであるべきエース技術者への支援をするのが理想である。役職定年制度は優れた制度である。この制度を前向きに捉え、明るく使いこなす社内文化があれば、研究開発部門の「働きかた改革」は成功する。
(*)企業にとって美味しい研究テーマとは、既にに完成されている技術の中から顕在化されていない潜在ニーズをあぶりだすことである。勿論、知財の安全を確認し、事業の優位性が確保できていることである。(2018/09/14 発明くん)
(*)「成熟・衰退期」における筋の良い研究テーマの発掘法に関する資料は、
https://www.ipma-japan.org/member-service_05.html