2017年、日本人の関心事は、トランプ政権の「アメリカ優先主義(保護主義)」が日本経済へ与える影響であろう。アメリカの現状は、レーガン政権が生まれる1980年の時代背景と似ているとも言われている。”日本製品がアメリカの労働者を苦しめている”ということで、日本の家電製品がハンマーで叩き潰される映像を覚えている人も多いと思う。歴史は繰り返すのである。
1985年は、アメリカ(以下米国という)にとって画期の年であったと言える。もちろん、この年を境にものごとがガラリと変わったわけではないが、この年に象徴的な二つのレポートが提出されている。一つは、議会委員会の議長をつとめたHP(ヒューレット・パッカード)社のCEOの名を取って、通称「ヤングレポート」と称される、レーガン(Reagan)大統領への答申書である。これにもとづいて米国は「プロパテント政策(戦略)」に転換したと言われている。もうひとつは、MIT(マサチュ-セッツ工科大学)が世に問うた「メイドインアメリカMade in America」という分厚い報告書である。
当時の米国の状況は「物づくり」の競争に敗れた」ということであり、その分析から導きだされたヤングレポート(提案)は、知識と技術の重視と、それに基づいて、一つは知的財産権(Intellectual Property Right)の強化であった。MITのそれは、製造業の大幅な改善であった。MITの報告が、その後どのように扱われたのか私は知らないが、その後の米国の動向で見る限り、この提案は「国策」としては採用されなかった。つまり、「物づくり」でもう一度世界のトップの座を奪い返そうという方針は、米国において葬り去られたことになる。
国の戦略や政策転換を先頭にして、人々のマインドまで変えて行った流れは、”知的財産で稼ぐ”というものであった。汗水流して「物づくり」に邁進して日々の糧を得るということはやめて、スマートにお金を稼ごうということである。すなわち「マネー資本主義(*)」への国を挙げての戦略転換であった。
(*)資本主義には「物づくり」を基盤にしての「製品生産資本主義 Production Capitalism」と、お金を基盤にしての「マネー資本主義 Money Capitalism」が考えられる。しかし、両者はマインドにおいて極めて異質で対極にある。米国は「プロダクション資本主義」の王座を奪い返す方向は取らずに、知恵そのものでお金を稼ごうという方向に、すなわち「マネー資本主義」の道を国策として採用した。そのことが米国内のみならず世界中での「軋み(きしみ)」の主たる根源になっているのではなかろうか、とも考えている
1980年代の時点で、米国の強いところと弱いところを考察すれば、「物づくり(ハードの製品)」に遅れをとったあと、残された強い分野は、コンピュータ・ソフトウエア、バイオ、そして情報システムを基盤にした各種の社会運営システム、ビジネスメソドのシステム化にあるということは、それほど深く考えなくともわかることであった。
米国がプロパテント政策を推し進める為にと取った具体的な知財戦略は、1).知的財産権の重要性を宣伝する。2).パテントのローヤルティで稼ぐ方法を編み出す。3).WTO(世界貿易機関)の場を活用する。4).司法優先の利を生かした裁判を活用する。5).世界共通語である英語(米語)を最大限に活用する。6).「特許明細書」という「紙の商品」でお金を稼ぐビジネスモデルを創る、であった。その結果「紙の商品」である特許明細書を磨き上げる米国特許弁護士が求められた。「パテント・ホールディング・カンパニー」などが生まれ、巨額な賠償金が飛び交う「米国特許訴訟」となったことは周知のことである。
次期大統領トランプ氏が唱える雇用方式は第4次産業革命(インターネットによる物づくり)でも通用するのか、トランプ政権で無体財産である知的財産の価値がどのように変わるのか、を考えたい。以下次号へ続けます。(発明くん&Y.S 2017/1/11)関連記事は、↓
http://www.ipma-japan.org/learning07.html