米国におけるIT関連特許の「凄まじき侵害訴訟の実態
大谷翔平投手(日ハム)が165キロを出しましたね。敵、味方も唖然として、ただ驚きの様子でした。ボールが手から離れた瞬間にホームベースを通過したという感じですか。実は、このブログ(6月号)で大谷投手のことを書かせて貰っています。ついでにそちらも読んで欲しいです。
では本題へ進みます。第2回は、米国におけるIT関連特許の「凄まじき侵害訴訟の実態」です。特許の世界は世界共通の基盤の上に構成されていますが、各国それぞれに特質があります。中でも米国は日本と比べ、異質の様相が随所に現れています。特に侵害訴訟の様相は、あたかも「訴訟産業」とでも称すべき“ビジネス”が存在するかの如くです。
1990年代半ば、米国議会は商務省の配下にある特許庁(USPTO)に対して、自立(経営の効率)することを勧告しています。手っ取り早いのは特許審査の効率を上げることです。しかし、そのことが「緩やかな特許審査」へ繋がったと考えています。
ソフトウエア特許(ビジネスメソド含む)と、特許性が疑わしい特許の存在が、知恵・知識で稼ぐという風潮に拍車をかけています。更に特許権重視の下、原告に有利な判決も増えています。そのことが“実業”を行っていない特許を保有するだけの団体(パテント・トロール)からの訴訟を多発させています。日本企業がIT分野で事業を展開するにはアメリカ市場を無視する事はできません。特許侵害訴訟の危険性を知っておくことは必須の要件です。
特にパテント・トロールによる訴訟において、侵害されたと称する特許がどのようなものであるかを知っておくことは、仮に技術分野は異なっても、その危険度を知る大きな材料になるはずです。これらの特許には大別すると二つの大きな特徴が見られます。①、発明(と称されている)の基本技術事項が極めて広くクレームされています。②、一つの(比較的小さな)発明であっても周辺を明確に囲った狭いクレームで仕立て、さらにいくつもの特許でどの方面からの攻撃にも耐えられるようにクレームを重ねています。
2002年、米国のパテント・トロールNTP社(米国)がカナダのRIM社(ブラックベリー)に対して、自社特許を侵害しているとして、提訴した「無線Eメールシステム訴訟」の背景を説明します。(*)2005年に損害賠償金などを含めて合計4億 5000万USドル(約450億円)で和 解判決が出ましたが、その後もゴタゴタがありました。
NTP社のパテントが取得された1995年当時、Eメール利用は、ほぼ企業内に限られており、無線で広域に、どのEメールシステムとでもやり取りできるサービスはまだ実現されていませんでした。それから10年、インターネットの下、主として携帯電話の普及により無線を使って異種システム間でEメールをやり取りするサービスとその利用は当り前のものとなっています。その当り前のシステムの提供者に対して、「あなたのシステムは私の特許を侵害している」と訴える者が出てきたわけです。
訴えられた方は、既にEメールサービスや製品販売事業を大きく展開していますので、事業をやめるわけにはいきません。ローヤルティやライセンス料、あるいは賠償金を払わざるを得ない状況に追い込まれるわけです。1995年以前から今日の技術状況が来ることを見越して「発明」した頭脳も凄いですが、今日の盛業を見越してその間パテントを保持し続けた「気力・資金力・先見の明」もたいしたものです。
RIM社(1984年創立)は、世界のモバイル通信市場に対して、革新的な無線通信のソリューションを、その設計から製造、販売まで行っているリーディング企業であると同社のウエブサイトで表明しています。多数の無線ネットワーク標準をサポートする統合的なハード、ソフト及びサービスを開発することによって、RIM社はEメール、電話、SMSメッセージング、インターネット及びインターネットベースのアプリケーションのプラットフォームとソリューションを提供していることが、同社の表明の中に見られます。なお、同社の最大の市場は米国とのことですから、同社にとって死活問題でした。(2016/10/18 発明くん)
知的財産活用研究所では、このUS特許5,438,611号を「3*3方式による対訳教材」を作成しています。興味のある方は、こちらから
http://www.ipma-japan.org/weblearning_05.html