本年(2013年)1月8日(火曜日)、いつものように遅く帰宅して食事しながら日経新聞夕刊を読み始めたが、驚いて食べているものを噛まずに飲み込むところであった。社会面のトップに「高校、今春から指導要領改訂、『英語で授業』先生も奮闘」という記事が出ていたからである。
文部省が指導する英語教育についてはこの「村塾」ブログで何度も書いて来ているから同じ事を繰り返したくないが、今度もまた「思いつき」の離れ業である。英語教育の現状を分析し何が問題かを洗い出す作業無しに、トイレかどこかで「思いついた」施策がまたまた提示されている。
情報を新聞に頼ってはいけないので、文部科学省のサイトにアクセスして、平成21年(2009年)3月発行の指導要領の外国語の部分を読んだ。なお、分類では「外国語」という課目になっているが中身は英語だけなので、この名称からのみ見れば中高の外国語とは世界に英語しか存在しないと考えられているようである。しかし、話がこんがらがるといけないから、その点には眼をつぶる。
さて、高等学校の課目「外国語」(第8節)は以下で構成されている(第2款 各科目):
①コミュニケーション英語基礎、
②コミュニケーション英語I、
③コミュニケーション英語II、
④コミュニケーション英語III、
⑤英語表現I、
⑥英語表現II、
⑦英語会話。
なぜ「コミュニケーション」がわざわざ付けられているのか、「会話」との違いは何かについては要領を読んでも理解できないので、そのこともここでは”気にしない”ことにする。
そして、びっくりの事項であるが、「第3款 英語に関する各科目に共通する内容等」の第4項にその部分がある。なお、ここで突然「外国語」が「英語」となっているのかも目をつぶることにする。一つの事項を異なる名称で呼ぶことは論理展開上厳しく禁止されていることだが、血圧に影響するので”何も言わない”。また「内容等」とあるからそのほかになにかあるのかと思ってはいけない。官庁用語でなんでも後に「等」をつけて範囲を限定しないようにしているだけであるから。(何かの時の煙幕のため)
話が余計なところに行きそうになったが、第4項の本文をそのまま写す:
”英語に関する各科目(私の勝手な注:上記7科目のこと)については、その特質にかんがみ、生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、授業は英語で行うことを基本とする。その際、生徒の理解の程度に応じた英語を用いるよう十分配慮するものとする。”
Do you understand the teaching(指導)?
実戦に慣れさせるために、ライフル銃の扱いを習ったばかりの新兵さん(生徒)を野外の演習場に連れ出して、模擬の機関銃射撃音や迫撃砲の閃光の下で、鬼軍曹(英語教師)の怒声(もちろん英語!)にあおられながら地べたをはいずり廻らせる、というわけだ。”やダー”とか”怖いー”なんて日本語で言うと、訓練後に腕立て伏せ100回なんてお仕置きを喰らいそうである。
”生徒(新兵)の理解の程度に応じた英語を用いるように”というご指導もなされているから、教官(鬼軍曹)も大変である。ライフル銃にどうやって弾を込めていいのかまだわからないのもいれば、”突撃”だの”撃ち方やめ”なんて号令(単語)の意味も理解できないのもいるしで、軍曹も大忙しとなるだろう。教室が阿鼻叫喚の戦場と化すのではなかろうか。
そのような模擬実戦訓練を受けたあと、ほっとする間もなく試験を受けると、そこではなつかしの「英文和訳」の山であったりする。それだから、上級を目指す新兵さんは昼間の演習で疲れ果てていても、ベッドの中で(懐中電灯の明かりの下で)自分で古典的英語学習、すなわち大学に受かるための勉強もしなければならない。
更に、教官殿といえど、実戦ははなはだ危うい人も多いだろうから、模擬演習がどれだけ本当の実戦に役立つかは、大いなるはてなマーク(?)となる。
実戦の場で英語に苦労した一人としての私の評価を一言でいえば、トイレで思いついた今回の「秘策」も、100人中99人がグローバルの戦場で英語で討ち死にという事態の改善には何の役にも立たないだろうし、それどころかますます訓練の場での混乱を引き起こすだけ、となる。
(13.01.12.篠原泰正)