電車の中に「優先席」という特別座席が設けられたのはいつからであったろうか。はっきりした記憶がないが80年代の終わりごろだったか。お年寄りや身体障がい者や妊婦さんが乗ってきても席を譲る人が少ないため、輸送会社が苦肉の策で考え出したのだろう。いずれにせよ、このような特別席を設けなければならないという事実は集団としての日本人の恥であることは間違いない。
それはともかく、元気なときはこの特別席の存在を気にすることはなかったが、私も前期高齢者に分類される歳になり、いささか足腰に衰えも感じはじめているので、電車を利用する時には、せっかく設けていただいているこの席に隣接するドアから乗るように心がけている。
ところがどうして、この席を利用できる確率は4回に2回ぐらいの割合しかない。
4回に1回は席が空いているケースである。しかし、この空いている席の99%は3人掛けの真ん中の席となる。足が不自由であるとか、身体に何らかの障害を持つ人にはドアにもっとも近くかつ縦の手すりがある席がもっともありがたいのだが、残念ながらそこに座れるチャンスはめったにない。座るとき、立つときに手すりも何もない真ん中の席に肩をすぼめて遠慮しいしい座ることになる。
なぜか。日本人は何しろ「隅っこ」が大好きだから。いままで座っていたドア側の席を立って降りる人が出る。そうすると真ん中の席に座っている人が、”待ってました”とばかりに実に素早くこの端っこ席に移動する。この素早さは実にたいしたもので、行動に移す意思決定に瞬時の迷いも見られない。
さらに、この優先席が設けられている区画は車両の真ん中ではなく、端にある。このことが更なる問題を生む。乗ってくる人の行動パターンを観察していると、半数以上のひとは無意識(であろう)に車両の端側に向かう。つまり、優先席区画は車両の真ん中部よりも常に立っている客の割合が多い”込み合う”区画となる。”幸運にも”優先席に座れたとしても、降りるときには、しばしば、込み合う人を掻き分けて、ということになる。
これらの観察から、”日本人は隅っこが大好き”という結論を導き出さざるを得ない。あるいはこの現象は東京に限られているのだろうか。他人との接触をいとわないひとが大勢いる(と思われる)大阪人の本拠地では別の風景となるのだろうか。そうであれば、タイトルを変更して、"東京人は隅っこがお好き”とするべきであろう。
ともあれ、ドア寄りの隅っこ席はもっとも愛されている席であり、そこが埋まっていれば、第二のお気に入り場所である「こま犬」空間を占有するという順序になる。
袖触れ合って生じる他生の縁を嫌う人がこの20年ほどで目だつほどに増殖してきている。(もちろん、統計データ無しの非アカデミックな観察結果であるが)
(12.4.26.篠原泰正)