(213) 思考麻痺、あるいは引き籠り
ペリー提督が4隻の黒船を引き連れて浦賀に突如現れたとき、江戸幕府のトップおよびその下の行政官僚の誰一人として、事態を理解し対処する策を考え出す力はなかった.この中央政権だけでなく、三百諸侯と称せられた大名の家中でも、ほとんどただ呆然としているだけだった.
その250年から300年前の安土桃山時代の大名およびその下の武将連の鋭さと比べてみると、これが同じ民族なのかと疑いたくなるような、なさけない姿に落ち込んでいた.鎖国200年で人間はここまでボケルことが可能だという見本である.
幸いあのときは、一握りの意識が高くかつ果敢な行動が取れる人々がいたおかげで、なんとか状況に対応してしのぐことができたが、今回はどうであろうか.戦後60年で、しかもこの10年で日本の社会は急速にボケがきているので、事態への対応はたいへんなこととなるだろうが、反面からいえば、社会の落ち込みが急激であればあるほど回復の上昇も急角度になるとも期待できる.
いずれにせよ、これまでの工業化時代の命の水(アクアビット)である石油が手に入り難くなれば、社会経済政治のほとんどあらゆる面で、これまでの仕組みのままでは行き倒れになるのは目に見えているから、あらゆる面で「改善」をやらざるをえない.そして、改善と同時に、あらゆる面でエネルギーの消費を少なくしなければならないから、物事を効率よく、クールに進めることが要求される.つまり、無駄なことをしている余裕はなくなる.
会社の中においても、一見仕事をしている風の無駄なお遊びはご法度となっていくだろう.必要な成果を効率よく獲得するためには、本物の仕事をする必要がある.
例えば、国内および海外で特許を取りたいのであれば、出だしのところで、明快な日本語でかつ世界にそのまま通用する文書スタイルで特許仕様書を作成することが必要となる.これさえできれば、英語その他に翻訳する作業も効率よく、すなわち経費が少なく実現できる.だれが読んでもわかるように書いてあれば、特許庁の審査官の審査作業も大いにはかどるだろう.他社の特許を調べる作業も大いにはかどるから、研究開発の効率化も実現できる.読んで意味がわかるなら、大学生も読むようになるだろう.
話は、本当に簡単なことで、世界に通用するスタイルで文書を構成し、明快な日本語文章で記述すればよいだけのはなしである.やろうとすれば、明日からでも改善作業に着手できる簡単な話といえる.ドキュメントというものは、元来、他者に理解してもらうためにあるのだから、原点にもどればいいだけの話である.明確に簡明に書くこと、という特許機関からのお達しに、素直に従えばいいだけの話である.
さて、こんな簡単なことが、できないわけがなく、いまから1年後には、国内で出願される特許仕様書の文書スタイルと文章が一新されたものが幾つも幾つもでてきていることになるだろう.そうなれば、今までのように分けのわからない珍奇なスタイルで作成された仕様書は、銀座の中央通を人力車で走っているような「異様な」姿で人目を惹く事になるだろう.野暮のきわみと、笑われることになるだろう.
それとも、世の中の状況にいっさい目をつぶり、ひたすらに「伝統のしきたり」の中に引き籠もってしまう人がほとんどということで、この分野ではいっさいの改善は行われないまま過ぎていくのだろうか.
(06.8.04.篠原泰正)