原子力委員会の文書をネタにはっきり表現するにはどこがポイントか、というテーマで2回に分けて追いかけたが、書かれている内容そのものが理解できないので打ち切ることにする。
私が福島原発近くに住んでいて強制立ち退きを命ぜられ、どこかの「難民キャンプ」で毎日を送っている身であるなら、もっとも強い関心事、つまり知りたいことは、当然のことであるが、放射能の影響である:
1)最初の数日のドカンでどれだけの放射性物質が大気に撒き散らされたのか、
2)その後毎日、1日あたりどれほどの放射性物質が大気に流れ出ているのか
3)大気中の放射線物質がどれほど大地に舞い降り、その累積量はどれくらいになるのか
4)地下にしみ込み地下水を汚染している量はどれぐらいか。
以上がデータとして知りたいところで、次いで、そのデータが体にどれほどの影響を与えるのか知りたい、ということになろう。
原子力委員会のウエブサイトから一つの文書を取り出して影響を理解しようとしたが、何が説明されているのか理解できなかった。そのため、何とか理解しようとして、原子力関連の辞書であるアトミカ(atomica)で調べたり、”わかりやすく説明”とされている東大病院や広島大学のサイトにアクセスしたが、それでもまだ理解できない。
わかったことは、どうやら、放射性物質の人体への影響については、国としての統一基準は存在しないらしいということだけである。特に、今回の福島事故のように原子炉から広範囲に放射性物質が撒き散らされる場合の周辺住民への影響は、事故そのものが「想定外」のためか、”これより先キケン!”という境目がはっきりしない。人体への影響については、私が考えるに、いくつかの場面がある。一つは広島・長崎のケースでこれはもう「想定外」で結構。2番目は、例えば今回の福島のように高濃度の放射線現場で作業する人を対象とした場合。3番目は医療現場で例えばCTスキャン検査を受けるような場合。そして、4番目が今回の福島のケース。
2番目のケースは、プロフェッショナルの世界の話しであるから一般市民がキチンと理解出来ているかどうかは課題ではない。3番目のケースは医療現場の課題であるから、今回の話からは外せる。
従って、前回2回で取り上げた原子力委員会の文書のように、250ミリシーベルトを超えると白血球が減る、とかの話しは今強制避難を余儀なくされている人には余計な話しである。微量であっても毎日大地に降り積もる放射性物質がどれだけの量になり、その累積値が人体にどれほどの影響を与えるのか、それが知りたい。また、毎日、呼吸で取り込んでしまっている極微量の放射性物質が体内にたまるのか出て行くのか、また、放射性物質を吸収した作物や魚を食べるとどうなるのか。
国民にわかりやすく説明する能力がないのであれば、そんな難しい危険物を扱う資格はない、ということになるだろう。爆発から2ヶ月半以上たった今頃、海水を入れたの止めたのとドタバタ劇を演じていることでますますはっきりしたように、この国には原子力発電などという高度に危険なシステムをマネージ(経営・運営・管理)する能力はない、と断定できる。自分の能力と理解力を超えた「複雑」な原理とシステムには手を出さないことが一番の解決策といえよう。
自分で理解できていないことを他者にわかりやすく説明できるわけがない。
(11.5.27.篠原泰正)