いうまでもなく、言語とはその目的を伝えることにおいており、「表現する」機能とそれを「受け止める」機能で構成されている。具体的には、「表現する」は口で話す(語る)機能と書く機能のどちらかで成り立つ。「受け止める」は耳で聞く機能と目で読む機能のどちらかで成り立っている。「表現する」機能がうまく働いていない場合、「受け止める」機能が優れていても、意図したことが伝わらないことになる。その一方で、「表現する」機能を高度に展開して、うまく伝わらないようにするというテクニックが使われる場合もある。このような場面に出くわしたとき、人は、この表現者(語り手、書き手)はドタマが悪いのか、はたまた、(ズル)賢いのか、と判断に迷うことにもなる。
3月11日の大津波の1ヶ月前に、福島第1原発1号炉の使用延長を許可した文書が私の前にある。この1号炉は運転開始以来本年3月26日に使用限界の満40年になることから、規定に従って使用延長の可否を審査しなければならないことになっている。(*1号炉はその直前にダウンしたので惜しくも40歳の誕生日を祝うことができず記録を逃したことになる)
経済産業省原子力安全・保安院
平成23年2月7日 ニューズリリース
タイトル:東京電力株式会社福島第一原子力発電所1号炉の高経年化技術評価書の審査結果及び長期保守管理方針に係る保安規定の変更認可について
(*タイトルからは誰が何をどうしたのかよくわからないが、まあ文句を言わずに先に進もう)
(*次の文はリリース内容の前書きみたいなものである。-実際には罫線で囲われている)
”本日、原子力安全・保安院は
東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)から
実用発電用原子炉の設置・運転等に関する規則(以下「実用炉規則」という。)第11条の2の規定に基づき実施された福島第一原子力発電所1号炉に係る原子炉施設の経年劣化に関する技術的な評価(以下「高経年化技術評価」という。)の審査結果を取りまとめるとともに、
「長期保守管理方針」に係る認可を行いました。
また。これらの結果について、原子力安全委員会へ報告しましたのでお知らせいたします。”
意味がわからなければ2、3回繰り返して読んでください。しかし、それでもわからん、でしょう。
なぜか:
・”東京電力から”という言葉の行き先なく宙に浮いている
・高経年技術評価というのは誰が行ったのか?
・この保安院は”審査結果の取りまとめ”だけを行ったのか?
・それなら審査をしたのは誰だ?
・「長期保守管理方針」は誰が策定したのか?
上の文章は、何も裏がなく、単に「言語表現能力不全」の結果であろうと診断できる。
上に挙げた文に続き、本文が始まる:
”1.核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「原子炉等規正法」という。)第37条第1項に基づき、
平成22年3月25日(平成23年1月17日一部補正)、
東京電力から
「福島第一原子力発電所原子炉施設保安規定変更認可申請書」の
提出がありました。”
コメント:
・法令何条に基づくなんて事は末尾に注釈で小さく挙げておけばいいだけなのに、端から大上段に振りかぶって脅かすことに慣れているとこういう書き方になる。
・漢語フェチによる書類の題名;「保安規定変更認可申請書」は、「保安規定を(自分達で)変更したいので許可願います」という意味なのか?電力会社が勝手に書き換えて認可さえもらえばいい?それとも、「保安規定を変えてもらいたいのでよろしくお願いします」という意味か?
・この申請書は誰に提出されたのか?肝心のことは書き漏らす。多分、普段から、誰が-いつ-何を-どこで-誰に-どうしたということをはっきり言わないくせがついているのでついついうっかり書き漏らす。なお、ついでに言えば、われわれ日本人は「受け手」として推し測る能力に長けているから、ここでの提出先はこのリリースの発行元の保安院であろうと「推測」できる。しかし、その推測が正しいかどうかは保証の限りではない。さらに言えば、この文章はこのままでは英語など欧州語には翻訳できない。つまりどこの誰に「提出」されたのか書かれていないので文章を「建てる」ことができない。無理やり翻訳すれば、上に書いた「推測」で「保安院に提出された」と入れ込むことになる。
11.5.12.篠原泰正