(176) PDA、あるいはおおらかな日本人
昨日の朝日新聞を読んでいたら、政府が企業や大学に、もっと厳選して特許を出願しなさいと勧告を出すらしい.日本においても、出願された特許仕様書は1年半後には公開される.この技術情報が他国の企業、特にお隣の韓国や中国の企業に随分「お役立ち」しているらしい.なにが書いてあるのか分かりにくい仕様書であっても、立派な図面が「完備」しているから、情報としては充分に役立つのだろう.
今年になって、某大メーカーにおいて、未だに、研究開発部門に対して特許出願件数のノルマが課せられていると聞いて、驚いた.昔、私の現役のころ、そのようなことがなされているとは知っていたが、まさか今でもやっているとは.
今回の政府の勧告は、ほどほどに特許を出願しないと、情報をただであげるばかりですよ、との指導だろう.幼稚園児に、横断歩道を渡るときには手を挙げて渡りましょう、という指導と同じレベルの話である.政府から、このような幼児への注意の如き指導を受けて、企業は恥ずかしくないのだろうか.情けないことだ.
と、思ったが、特許を山ほど出願しているのは、実は企業の「PDA」活動なのかもしれないと思い直した.その昔、大日本帝国が韓国や中国に多大の迷惑をかけ、しかも政府がなかなか「ごめんなさい」と言わないものだから、民間企業が自発的に償いをしているのではないか.政府主管の「ODA:Official Development Assistance」ではなく、「PDA:Private Development Assistance」として、各企業が自発的にその最新技術を、特許庁の場を借りて公開しているのではなかろうか.
おおおらかなものである.また、その志の高さは、さすがサムライの国の大会社である.この「立派」な行為から翻ってみると、政府の「ご注意」はセコイものだ.余計なお世話だ、俺たちは「世界」のために自社の技術はスッポンポンになるまで公開するのだ、と政府にたてつく会社も出るだろう.1件出願あたり、何百万円かの費用をかけて、自発的に、世界のために、貴重な技術情報を無料で公開しているのだから、さすが紳士の国ニッポン、金持ちの国ニッポンの会社である.
日本はまだまだ捨てたものではない.
(06.6.9.篠原泰正)
補足:日本の特許出願が約30万件/年として、出願だけの未審査+拒絶を受けたもの+日本国内だけの出願で権利化されたものの出願合計は全体の80~85%ぐらいかな?この情報が無料で安心して使えることになる。残りの5万件足らずが国際出願され権利化されていたとしても意味不明で権利としては極めて弱い。さらに特許権利切れの情報まで含めると、やりたい放題が可能となる?
(矢間伸次)