動詞を大事に:暑さしのぎに朝日の文章の検討を続ける
世界の公用語のつもりで書く(12)
(11)”自立支援法の施行は06年。”
ここから、これまでに述べられてきた事項の背景説明に移る。新聞記事は紙面が限られているため、もっとも重要な事を先頭にもって来るという、いささか特殊な書き方がとられていることを承知の上で読むとわかりやすい。
ところで、これは変な文章である。06年にこの自立支援法が施行されたことはすでに文章(4)で述べられているのでここでもう一度言う必要は無いだろう。背景説明をここから始めるという意識で書いているのなら、「この自立支援法は06年から『施行されてきた』」と書くべきであろう。
”施行は06年(である)”は、主語”施行”はXXである、という主体の属性を表す文章になるのでなんだか変な感じになる。できるだけ「である」(英語のbe動詞)表現を避けて、動きを示す動詞を使いたい。
(12)”支払い能力に応じた負担から、サービスの利用量に応じて原則1割を負担する仕組みへ変わり、障害が重い人ほど負担がのしかかった。”
”負担がのしかかった”という表現は文章として成立しない。”負担が(重く)のしかかった”であろう。また”利用量に応じて原則1割を負担する”は事実関係があいまいである。利用量が多ければ、例えば1割(10%)が5%に下がるのか?障害が重いと負担が増えると次に書いてあるのでどうもそうではなさそうである。
書きなおす:
この自立支援法は06年に施行され、それまでは支払える能力に応じた負担であったのが、誰もがサービスの利用料に対して原則として1割払うことが求められることになった。そのため、サービスの利用が多い障害の重い人ほど負担する料金が増えることになった。
動詞とその変形の修飾語という視点で見る:
支払う-支払い、応じる-応じた、負担する-負担、利用する-利用、変わる、のしかかる
(13)”反発を受けて自公政権は負担軽減措置を取り、平均負担率は3%程度になったが、障害者の憤りは治まらなかった。”
漢語を連ねるのはできるだけ避けたいものだ:「負担軽減措置」でだいたいわかったような気になるが、この「措置」とはなんだ。法を修正しなければ「措置」は取れないはずだが。
”反発を受けて”:誰が反発したのか?文面から読者は当然「障害者の反発」であることは推測できるが、独立した一つの文章としては「障害者の」を含める必要がある。
”平均負担率3%”:10%の負担が3%に下がったのなら結構な話では、と私は思うが、障害者の憤りがおさまらないのなら、どうやら事は負担の率ではなさそうである。事実関係がわからん。障害の重い人ほど負担が重くなるという事実は、一人当たりの平均負担「率」にはつながらない。負担の絶対額の平均を言うべきであろう。
”治まる”:漢字が好きなのでどうしても使いたいようだが、「治める」は「政治」という言葉でわかるように国や社会を「治める」意味であり、怒りを「おさめる」のは「しずめる」意味であるから、漢字を使うなら「収める」であろう。「いきどおりをおさめる」と聞けば誰もが意味を理解するから、ひらがなで十分である。
無理やり想像を加えて書きなおす:
障害者の反発が大きかったので、時の政権はこの支援法を修正し、障害者の負担が軽くなるようにした。これによって一人当たりの平均負担率は3%に下がったが、障害の重い人の負担額が前の制度の時と比べるとXX%も増えたため、この支援法に対する障害者の怒りはおさまらなかった。
(10.07.23.篠原泰正)