外国語として日本語を眺める
世界の公用語のつもりで書く(10)
長年使い慣れた日本語の能力でもって、あいまいな表現や意味が理解できない表現に出会っても、”まあ、だいたいこんな意味だろう”と「寛大なる心で理解する」のをやめて、日本語を外国語として習ったつもりで読んだり書いたりすることも、明快な表現に達する一つの道であろう。
そのようなわけで、「ガイジン」のつもりで朝日新聞の記事を読み続ける。
(9)”さらに、同法廃止後の新たな福祉法制の実施に向けて、「障がい者制度改革推進本部」(本部長・鳩山由紀夫首相)で、障害者自身が参加して議論を進めることを確約。”
動詞および元が動詞であると思われる単語:廃止、実施、改革、推進、参加する、進める、確約
想像をまじえながら単文に分ける:
(9)-1.(厚労省は)現行の支援法を「廃止する」。
(9)-2.(厚労省は)新たな法案を「作る」。
(9)-3.その新法案を軸にしての新たな福祉法制を(厚労省が)「敷く」。*「法制」という言葉はなんとなくわかるようであるがよくよく考えるとなんだ?
(9)-4.(内閣は)障害者制度を「改革する」。
(9)-5.(内閣は)その改革を「推進する」。
(9)-6.(内閣は)XX推進本部を「設置する」。
(9)-7.(その推進本部で)新たな法案を「作る」。*9-2と異なることになる
(9)-8.(その推進本部での検討に)、障害者(の代表)が「参加する」。
(9)-9.基本合意文書において、以上のことを、厚生労働相が「確約した」。
上記の単文からわかるように、誰が法案を作るのか主体(主語)が不明であるし、誰がどこで「確約」したのかもはっきりしない。なんとなく、おおよその事実は想像がつくが、それは読み手が持つ厖大な関連知識と使い込んだ日本語能力による「推察」が行われているからである。私が「ガイジン」ならお手上げとなるだろう。
(10)”残る課題として医療費の負担軽減策が盛り込まれた。”
単文:
(10)-1.(障害者の)医療費の負担を軽くするという課題が「残っている」。
(10)-2.(推進本部は)その負担を軽くする対策を「講じる」。
(10)-3.対策を立案する約束も合意書に「盛り込まれた」。
文章(10)を書いた人は、課題と対策の関係が理解できていないようである。負担軽減「策」がすでにできているのならそれはもう課題ではない。「負担」-「軽減」-「策」と並べられると、フンフンと読み飛ばしてわかったような気になるが、”アテンシオン、プリーズ”である。
「ガイジン」であることもなかなか大変である。
(10.07.22.篠原泰正)