世界の公用語としての日本語(6)
前回に引き続き朝日新聞の記事を材料にして
新しいパラグラフ
(18)”食育関連では来年度予算で農水省が8.7億円、文部科学省が「バランスガイド」とは別の教材冊子作製費約1億円を含む5.6億円をそれぞれ要求。”
「バランスガイド」という言葉がでてきたのは文章(8)であり、このように説明抜きで出てくると、読者は”なんだっけ?”とさかのぼって読み直す必要に迫られるだろう。
この文章での最大の問題点は、漢語で文章を終えているところにある。この様式はそこら中に見られるもので、誰も不思議と思っていないかも知れない。日本語文章は末尾に動詞がくるというボトムヘビーの構造を持っていて、これは言語の体系だから文句を言ってもはじまらないが、その末尾を動詞とも名詞とも区別のつかない漢語で閉めるのは、明確に言い切る上での妨げになる。あるいは言い切りたくない心情が働くから、この様式の書き方が溢れているのかもしれない。
書きなおしてみる
来年度予算に対して、食育関連事業では、農林水産省が8.7億円を要求しており、文部科学省は、農水省が出している教材「食事バランスガイド」とは別の教材制作費約1億円を含む5.6億円を要求している。
(19)”厚労省と内閣府にも関連要求があった。”
この文章は誤解を招く点でまったくのペケであり、赤字校正をすり抜けてこのような文章が出てくるのは驚きでもある。このまま読めば、厚労省と内閣府に対しても予算請求がなされている、ことになる。
書き直し
このほか、厚生労働省と内閣府からも、この食育に関連する予算請求がでている。
蛇足になるが、省庁の呼称の簡略化について、この記事は原則をもっておらず、デタラメである。基本原則は最初に出てきたときにはフルネームで書き、次からは略称でもよいとする。これは初歩中の初歩の原則であり、例えば次のようになる:農林水産省-農水省、文部科学省-文科省、厚生労働省-厚労省。
(20)”「食糧自給率を上げるのが目的」(農水省局長)、「食育基本法で位置づけられている」(文科省局長)と主張したが、仕分け人は「国民の理解が得られない」。”
(21)”組織の見直しを含め予算削減を求めた。”
何に対して両局長はこのように主張したのか。”推察”するに、(18)で述べられている来年度予算請求の内容に対する疑問が「仕分け人」から出されたのであろう。読む人が場面を想像し、頭をフルに回転させなければならない文章はこれまた落第である。
(21)の文章は誰が誰に対して求めたのかが述べられていないから、これまた読者の推察に頼ることになる。また、組織の見直しと予算削減とは、これまたあいまいな話であり、実際にどのようなやり取りがあったのか、この記事からは知るよしもないが、組織の話しと事業予算は性質が異なる事項としてもう少しは具体的な記述が欲しいところである。
書き直し
仕分け人よりこの予算請求の意義と価値について質問があり、それに対して農水省の局長が「食糧自給率を上げるため」、文科省の局長が「食育基本法で位置づけられている」とそれぞれ主張したが、そのいずれに対しても「そのような答えでは国民の理解を得ることはできないであろう」というのが仕分け人の判定であった。その結果、両省に対し、事業を一本に統合し、経費を大幅に削減する改善策を次の会議までにまとめるようにとの要請が仕分け人より出されて、このセッションは終了した。
*後半は想像に基づく私の付け足しである。
蛇足:テーマについて
ここまで読んできて気がつくのだが、この記事のテーマ(主題)は何か。天下る空の神兵(落下傘部隊)の数の多さなのか、似たようなアホな事業をあちらでもこちらでもやっていることなのか。主題がしっかりと据えられていないので、両方の話がいずれも追求不足の、表だけをなぞった表現に終っている。それとも、取材対象の会議が元々そのようなあいまいなものであったのか。
(10.07.14.篠原泰正)