世界の公用語のつもりで書く(5)
(889)に続いて、同じ記事を材料に取り上げて「文章」とは何かを検討する。
(10)”異なるのは、所管官庁だった。”
この文章の頭は1字下げて書かれているので、新しいパラグラフがここからはじまっていることになる。そうであれば、前の文章にぴったりと続いての書き方ではなく、何の話しかをもう一度はっきりさせておく必要がある。書きなおすと:
この二つの団体の名称は似ていても、詳しく見ると、所管の官庁が異なっていた。
(11)”農水省所管の「すこやか食生活協会」は元農水省食品流通局長ら農水省、厚生労働省所管の「日本食生活協会」は元社会保険庁長官ら厚労省系の天下り先になっている。”
所管の官庁が異なる話をしたのだから、まずその内容を具体的に示すことが順序であり、誰が天下っているかが次に来るべきであろう。書きなおすと:
「すこやか食生活協会」は農水省の所管であり、「日本食生活協会」は厚生労働省の所管であることが一覧表に示されており、前者には元農水省食品流通局長など農水省系、後者には元社会保険庁長官などの厚労省系の官僚が天下っている。
(12)”「成り立ちが異なります」。”
(13)”農水省の担当者は、そう釈明するのが精いっぱいだった。”
この二つの文章は、蓮ほう氏の「何が違うのか」という質問(4)の答えであり、間に団体の具体的説明がなされているから、事実関係を丁寧にしておくことが求められるであろう。読み手の推察力に頼る書き方は身内にだけわかればいい、という態度につながっていく。書きなおすと:
蓮ほう氏の質問に対して、農水省の担当者は、「成り立ちが異なります」、と釈明するのが精いっぱいだった。
(14)(*新しいパラグラフ) ”一覧表にある「日本フードスペシャリスト協会」。”
(15)”事務員1人に対し、役員は22人で、このうち官僚OBは4人。”
(16)”「役員が事務作業などに協力して取り組んでいる」。”
(17)”農水省側は、役員数は「水膨れ」ではないと説明したが、仕分け会場となった東京・市谷の国立印刷局市ヶ谷センターには傍聴者の失笑が漏れた。”
書きなおす:
一覧表にはその他に「日本フードスペシャリスト協会」という名も見られる。ここでの人員構成は事務員1人と役員22人(このうち官僚OBが4人)となっており、”これで業務がこなせるのか”との質問に対し、”農水省の担当者は、”役員が事務作業などに協力している”として、決してこの役員数は「水膨れ」ではないと説明したが、仕分け会場にあてられた国立印刷局市ヶ谷センター(東京都新宿区)の傍聴席からは失笑が漏れた。
このように、普段は読み飛ばしているが、自分は日本語を外国語として習った者であるとして、新たな目でもう一度新聞記事を読み直してみると、奇妙な文章が溢れていることに気がつくようになる。あるいは、この記事を英語に翻訳してくれと依頼されて丁寧に目を通していくと、文章1対1の翻訳は到底できないことに気がつくだろう。気取った書き方の裏に事実関係のあいまいさが隠れてしまう惧れがあることにも気がつくであろう。
(10.07.13.篠原泰正)