外に開かれた日本語を目指して:研究(20)
4世紀後半、アンティオキアで活躍した知識人の中でもっとも著名の人物はリバニウスであり、彼は非キリスト教徒の旗頭でもあった。彼の業績を紹介している幾つかの文章を今回の教材にする。
(文章3)
”リバニウスは
生まれつきのヒューマニストであり、
自分の生徒はもちろんのこと
助けを必要としている人々の幸福な生活に
深い関心を抱いていた。”
検討:この文章はリバニウスがどのような人(属性)であったかを2段に分けて述べている。すなわち、まず”ヒューマニストであった”と一般的な定義を行い、次いで具体的にそのヒューマニストの一面を描いている。
「リバニウスは
ヒューマニスト
であり、(属性定義)
人々の幸福な生活に
深い関心を
抱いていた。(状態説明)」
従って、主語リバニウスは二つの動詞を従えているので、「リバニウスは、」とコンマをここで入れて主語の存在を強調しておいた方が良いように思われる。
(文章4)
”彼は
古典文化を
文明の不可欠の基盤である
と考えていた。”
検討:この文章では二つの文章が複合されており、”彼は”と”考えていた”の間の説明が長い場合には次のような順序で書いた方が良いだろう:
「古典文化は
文明にとって不可欠の基盤
である、
と彼は
考えていた。」
(文章5)
”古典時代の偉大な著述家たちの作品研究を中心にした伝統的教育体系は、
各個人を
家族・社会・国家の成員として準備させる
最良の手段として
認められていた。”
問題点:主語の核”教育体系”の修飾部が長いので主語部が重過ぎるが、改善策はなさそうである。”体系は、”とコンマを入れているのは、主語部が長いときには不可欠であり妥当である。
問題点:”体系は””最良の手段”である;"体系”は”手段”であるだろうか。「体系」は何かを行う上での「要素」ではなかろうか。
「・・・・の教育体系は、
・・・・準備させる上で
もっとも肝心の要素である、
と社会で認められていた。」
問題点:”認められていた”;誰によって、どこで、の説明がないとあいまいな表現となる。
(文章6)
”この教育体系は
神々に対する正しい崇拝とあわさって、
ギリシャ文化に浴する人々を偉大ならしめ、
帝国の周囲の蛮族と彼らを
区別するものであった。”
検討:この文章の骨組みは、「この教育体系は、人々を偉大にし、蛮族と区別した。」となる。”教育体系”がそのような力を持つのだろうか。書き換えてみる:
「この教育体系の下で学ぶことによって、
また、
神々を正しく崇拝することによって、
ギリシャ文化に浴する人々は、
帝国の周囲の蛮族とは異なる高い人間性を
持つことができた。」
主語を何にするかで文章の展開は大きく異なることになる。
なかなか大変であるが、次回も続ける。
(10.03.20.篠原泰正)