前回、モノづくりの基本に「育てる心」があると記したので、忘れないうちに、その他の基本要素も挙げておこう。重要性の軽さ重さは付け難いので、順序を気にせず挙げてみる。
1.育てる心
これについては前回述べた。
2.名こそ惜しけれの精神
"俺がつくるかぎりへたなものは世に出せない”という、つまり自分の名誉にかけてキチンとしたものを出すという心構えである。半世紀前までは、この精神は、ほぼ日本社会全体に、当り前に息づいていたのだが、今は随分と衰弱してしまっている。
3.キレイ感覚
ヤマト言葉の「キレイ」には、整理整頓、清潔、そして美しいの三つの意味を含んでいる。”整理整頓されていない仕事場からいいものが出てくるはずがない”、という事実だけ見ても、この意味は理解されるであろう。
4.自然との共生(調和)姿勢
自然と調和しながら共に生きていくという姿勢が日本人の伝統的な特徴の一つであり、これからの地球においてはもっとも重要な要素となっている。
5.なぜ?を考える力
良い物を作り、それをさらに改良して出し続けるには、この「なぜ?」の力が必要であるが、半世紀に渡る日本の教育政策のおかげで、この力は日本人の中で見事なほどに低下してしまっている。これについては稿を改めて眺めたい。
6.スキ心
これが今回のハイライトである。簡単に言えば、モノをつくるのが好きな人が作ると、出来上がったモノが受け手に語りかける何かを表してくる、ということだ。
「スキ」という言葉は多分室町の頃から一般化したと思われる。その使われ方の一つである「好き者」というのは「女の人大好き」という情熱が極めて高い人を形容する言葉で、いささかここでの範囲を外れるが、極めて限られた対象に異常な情熱を注ぐ人がいわゆる”スキ者”である。漢字は、東京有楽町の数寄屋橋の「数寄」が当てられる。この「スキ」は「粋(すい)」(関西での形容詞)、「粋(いき)」(関東での形容詞)につながっていく。”モノをつくるのが大好き”-例えばホンダの本田宗一郎さん-な人が作ると、その制作物は限りなく「すいな」「いきな」レベルに届いて行くということである。
前にも書いた覚えがあるが、日本人と総称される集団は世界でも珍しい”モノづくり大好き”民族であり、このことが世界で生きていく上で大きな財産となってきた。この特徴、モノづくりに、他の民族から見ると”異常な”情熱を注ぐ「好き者」であること、をやめてしまえば、日本人は世界の中でそこらあたりのただの人にすぎなくなる。特に、お金に”異常な”情熱を注ぐ人たちのパワーにはおされっぱなしとなり、世界はまことに殺風景なものとなるだろう。
(10.01.28.篠原泰正)