◆ 知的財産権、とりわけその中核である特許権に関する現在の問題点 ◆
1.現状:3大問題分野
日本アイアールは、特許権に関する問題分野として、従来より、以下の3分野に注目してきています。
1-1.中国における模倣品の横行
【問題点:】
自社製品を中国の第三者にコピー(模倣)されても、その模倣品が自社(日本企業)で保有する中国特許を侵害していると訴えられない。
【なぜか:】
取得した特許を記述している特許仕様書(日本国内では特許明細書と呼ばれている)のなかで、発明が明確に請求されておらず、また、説明の記述も不明確のため、他者がその発明に基づく特許を侵害しているとの証拠にならない。
1-2.米国における特許訴訟の横行
【問題点:】
他者から、自社(日本企業)製品が、その他者が保有する特許を侵害していると訴えられたとき、その自社製品は自社が取得した特許(発明技術)で構成されており、他者の特許を侵害はしていないと反証できない。
【なぜか:】
取得した特許を記述している特許仕様書の中で、発明が明確に請求されておらず、また、説明の記述も不十分であいまいであるため、侵害していない証拠とならない。
*他者特許を侵害していないと主張するためには、自社製品が、何で構成されているかを、明確に述べる必要があります。すなわち、世界標準に基づく技術部分、他者からライセンスを受けた技術部分、既に特許期限が切れて誰でも利用できる技術部分、および、自社取得特許技術部分の統合で製品が構成されており、他者の特許技術は含まれていないことを明らかにする必要があります。
1-3.国内TLOの展開
【問題点:】
大学や公的研究機関の法人化に伴い、米国にならって、TLO(TechnologyLicensing Organization)「技術移転機構」の設立と展開が進められているが、技術移転、すなわち技術の売買の実績はきわめて乏しい。
【なぜか:】
ライセンス収入を得ようとしている特許技術を記述した特許明細書が明快で無いため、特に技術ライセンスを受けようとする企業経営者にとっては理解するのが困難なため、売買が成立しない。
1-4.3分野共通の問題の原因
これ等3分野の問題の発生源はすべて同じで、日本語で記述された文書としての特許明細書がわかりやすく記述されていないことにあります。しかも、海外向けでは、中国には中国語で、米国には英語でと、普通でも難しい翻訳という作業が中間に介在するので、出願先での最終品の文書品質は想像を超えたものとなっています。
2.技術移転はなぜ進まないか
中国と米国分野の問題ではなく、3番目の問題分野である、国内TLO展開も、「知的財産立国」を標榜する日本にとっては、極めて大きな問題点と言えるでしょう。
2-1.日本では技術移転はなぜ進まないか
【その原因:】
(大学・研究機関側)
学者・研究者が、自分の発明技術を分かりやすく説明する必要性がこれまでなかった。*研究論文は科学・技術の限られた中でのみ理解されれば良い。
(特許事務所側)
1)技術が理解できる弁理士が少なく、特にこれまでの企業顧客の多くがそうであった応用技術ではなく、基礎技術に近いところの発明技術を理解するのが難しい。
*日本の弁理士受験資格は、米国や中国と異なり、理工系学部の卒業でなくとも良い。むしろ文系の学部卒業生の方が圧倒的に多い。
2)これまで、発明をぼかして書くやり方を続けてきたため、ライセンスを得るために明快に、正確に書くという方向に転換できない。
(大学・研究機関側)
教授や研究員は、これまで特許分野に遠く、特許に関しては半ば素人のため、例えば特許事務所から出来上がってきた明細書で自分の発明があいまいなものとなっていても、「特許の世界ではこうなります」などと言われれば、引き下がってしまう。
【その結果:】
これまでの、主に企業の特許明細書と同じ扱いで、明快ではない特許明細書が出願されてしまう。
【売買に至らない:】
特許庁の審査官はベテランであるから難しい言い回しがされていても解読力はあるし、非自明性(先行する技術は無い)と新規性(これまでに無い有用な新しさがある)さえ確認できれば特許は与えてくれる。
しかし、その発明技術の価値を判断できる文書には特許明細書がなっていないため、理解し購入するという展開につながらない。下世話に言えば、読んで理解できなく、価値を確認できない商品を買う人は現れない。
【この現状は認識されているか:】
技術移転がなかなか進まない事実は関係者の間では認識されているが、なぜ進まないのか、問題分析がおこなわれたという話は、寡聞にして聞かない。
2-2.(補足)米国ではなぜTLOはうまく展開されているのか以下にその理由を箇条書きにします:
1)風土:
大学や研究機関の先生や研究員といえども、自分の研究を売り込むことが当り前(売りこまねば生きていけない)の風土が昔からある。
また、分かりやすく文書にまとめるスキルは、その売り込みのためにも必須であり、誰もが身に付けている。
2)実績
TLOが強く提案され始めた1985年以来、既に20年の歴史がある。
3)支援体制:
ライセンスを稼いで分け前に預かろうと、特許弁護士(すべて理工系学部の卒業生)は大学等に入り込んで、熱心に特許仕様書作成に取り組む。1)とこの3)が組み合わされるから、「売れる特許仕様書」が出来上がってくる。
【その結果:】
この特許仕様書を読めば、企業の経営者にも理解できるので、売買の場が広がる。
3.明確(明快で正確)ではない日本語文章の改善努力
明確ではない国内の特許明細書の日本語文章を、何とか改善しようという取り組みは、(財)日本特許情報機構(JAPIO)でも始まっています。(ホ-ムペ-ジから移転)