(268) 互換性、あるいは他者へのやさしさ
日本の知恵を世界に伝え、貧しい国には無償で提供し、金持ち国からはライセンス料をいただこうではないか、そのためには、世界の主要言語と「互換性」のある日本語文章で書こうではないか、と私は提唱してきているが、とんでもないことを言い始めたものだと、いささか後悔もしている.なぜなら、このような表現は互換性がないとか、互換性を保つにはこのように書くべきだとか、さまざま例証をあげて具体的な展開方法まで深入りしていかなければ事がおさまらないからである.
他社製品と互換性のない製品が市場に存在することができないのは、メーカーの人間なら誰でも知っていることである.例えば、画像の解像度が格段に高く、圧縮比率も格段に優れている画像処理方法を発明したとしても、その画像ファイル形式が標準となり、他社機でも扱えるものにならない限り、その画像処理方式を搭載した製品は市場で一台も売れないとわかっているから、製品化されることはない.
文章の互換性を保つための第一歩は、日本語を母語とする他者に、自分が伝えたい物事を正確に伝えるところから始まる.少なくとも、正確に伝えたいという、他者への配慮が出発点で必要であろう.
昨日取り上げた一般新聞の寄稿へのコメント(266)の続きとして、もう少しだけ見てみる.
「第2次世界大戦中
ハンガリーは、....
ナチスと組んで近隣諸国に
出兵した.
敗戦国となったハンガリーは、
他の中欧諸国と異なる
懲罰的な
戦後処理を受け、
トランシルバニア地方の
200万人強に上る
ハンガリー人などは
過酷なルーマニア化政策に
苛(さいな)まれたのであった.
共産主義時代の
開発独裁的な経済政策は
相互に”一国”的統合を進める
仕組みを
作り、
皮肉にも経済建設に比例して
隣国関係は
悪化した.」
*1.懲罰的な戦後処理を誰から受けたのか.ソビエトロシアからということは歴史を少し知っていれば「推察」できるが、一言「ソ連から」と挿入しなければ、まともな文章にならない.
*2.ハンガリーの中のトランシルバニアがどのような地方でどのような位置づけにあるのか、知識がない人(私も無い)、ルーマニア化政策とは何がひどいのか分からない人(私も分からない)には、何を言っているのか不明の文章.
*3.「開発独裁的」な経済政策;この漢語は初めて目にした.まったく意味が分からない.自分しか分からない漢語を使うのはやめてくれ、と大きな声で言いたい.
*4.「一国的統合」も意味不明.
*5.「皮肉にも経済建設に比例して..」:何が皮肉なのか、さっぱり分からない.また、「経済建設」という漢語も何を意味しているのか?経済の再建なのか、経済発展なのか.
読み手に理解してもらうという姿勢に欠けていて、また、明確に書く訓練を受けていない人が書くとこのようになりますよ、という一つのサンプルと言えるだろう.このような文章に、一般新聞紙の夕刊で出くわすのだから、驚きといえば驚きでもある.(06.10.26.篠原泰正)