毎年毎年、日本から米国特許庁(US Patent and Trademark Office: USPTO)に6万件という膨大な数の特許出願がなされているという。単純に理解すれば、それだけ日本企業がアメリカ市場を重視している、ということだろう。
しかし、アメリカ市場がかつてのような輝きをまだ保っているのだろうか。大きく陰ってきているのではないか。アメリカ市場の魅力度を、一度洗いなおす必要があるのではないだろうか。
全体として、アメリカが何で飯を食っているのか、極めてわかりにくくなっている。かつては、フォードが編み出した方式どおり、製品をバンバン作り、そこで働く労働者は高い賃金をもらい、その給料で製品をバンバン買うというサイクルが確立していた。アメリカの国内で回しているだけで繁栄を保てた。こうして中産階級が増え、将来はバラ色だった。その輝きはしかし、85年を境にハッキリと陰りを見せるようになり、その15年後の2001年からは完全に、経済という体調不良だけでなく社会全体での精神不安定の症候も示すようになってきている。
製造業が陰りだしたのは、奇妙なことに、国内での石油生産がピークに達した時点からである。1970-75年ごろが石油と製造業のピークにあたる。ベトナム戦争で屈辱を味わったのもこの時期である。簡単に言えば、この時からアメリカは坂道を転がり落ちはじめ、現在はますますその転落速度が速まっているように見える。
製造業で飯を食うことを諦めたら、いったい何でオマンマが頂戴できるのだろうか。サービス産業?昔、新日鉄釜石の溶鉱炉の火が消えたとき、釜石駅前のパチンコ屋と居酒屋の多くも店仕舞いを余儀なくされた。当然であろう.汗を流して鉄を作っている人たちがいなくなれば、その人たちにささやかな慰安を提供していた「サービス」業もお呼びでなくなる。100人のうち全員がパチンコ屋と居酒屋とスーパーの店員と、加えれば霞ヶ関の官僚と市役所の職員だけいう社会が成り立たないのは、考えなくともわかる話である。
これから何回かに分けて考えていきたい「アメリカ市場はまだセクシーか?」というテーマの結論を先に一言述べると、事態は急速に悪くなってきているから、日本企業としても、アメリカ市場への戦略は大きく見直さなければならない局面にあるということになる。中産階級が崩壊し、社会の二極化が加速しており、そこにガソリンの大幅な値上げが重なれば、アメリカ国民の購買力が急激に落ち込むことになるだろう。10世帯あわせた収入を1世帯で得ている金持ちは、いくら金を持っていても冷蔵庫10台は買わない。一握りの金持ちと大多数の貧乏人という社会の二極化はその国の経済の崩壊を意味する。アメリカはこれまであざ笑ってきた「第三世界」のスタイルに自らが変身しつつあるのではないだろうか。
先週、05年9月第3週、Hurricane Katrinaがもたらした自然の災害だけでなく社会的傷跡も生々しいときに、ジョージア州(Georgia)選出の下院議員Ms. McKinneyさんが行なった講演から引用する:
One million more Americans
are living
in poverty today
than there were 1 year ago.
1年前と比べると、貧困の中で暮らすアメリカ人は100万人以上増えている.
In Manhattan,
the poor
make
two cents
for each dollar that the rich make.
(ニューヨーク)マンハッタンでは金持ちが1ドル稼ぐのに対して貧乏人は2セントしか稼げない.
This
places
Manhattan
on par with Nambia
for income disparity.
このことはマンハッタンがその収入の不平等性において、(アフリカの)ナンビアに並ぶものとなる.
Over 50 percent of America's income
goes
to the top 20 percent of households.
上位20%の世帯がアメリカの収入の50%占めている.
Incomes for 95 percent of American households
are flat or falling.
アメリカの世帯95%の収入は増えないか落ち込んでいる.
Only the top 5 percent
are experiencing
the growth
that we hear
the Republicans talk about.
わずか上位5%だけが伸びを享受している、と共和党員が話しているのを聞いた。
(05.9.21.篠原泰正)