中学生のときか高校生のときか忘れたが、シルバーナ・マンガーノ(Silvana Mangano)という官能的な女優さんが主演する邦題「苦い米」(Riso amaro, 英語題名Bitter Rice)というイタリア映画を見た記憶がある。映画の筋はまったく覚えていないが、舞台がイタリアのポー河流域の水田で、主人公は出稼ぎ農民であったことだけは覚えている。そのとき初めて、イタリアでもお米を作っているという「新鮮」な事実に驚いた。
地図でポー河流域を見ると、ヴェネチアの南にあり、川はイタリアの東のアドリア海に注ぎ込んでいる。
さて、話は地球温暖化で海面が上昇するという問題に飛ぶ。海面が上昇すると、この米どころのポー河デルタ地帯(Po river delta)に潮があがってきて、お米も何もとれなくなってしまう、と2日前のAFP電が伝えている。何しろイタリアの食物生産の3分の1はこのポー河の真水に頼っていると書いてあるから、これはたいへんな話だ。
グリーンランドと南極大陸の氷が溶けて海面がこれからどんどん上がってくるという話は前にも何回かこのブログで書いたが、そのときは、徳川家康が埋め立てを始めるまでは日比谷入江の真ん中に位置していた新橋烏森の飲み屋街も水に浸かって、もう飲みにいけなくなるな、なんてアホな感想であったが、とんでもない話。しかも、ポー河だけでなく、このように海に面しての低地穀倉地帯は、メコン河流域やガンジス河流域などなど世界にたくさんあるとのことだから、これはまさに死活の問題である。
潮が上がればお米が取れないのは当然である。塩害に強いお米というのはあるのかどうか、浅学の身にはまったく知識は無いが、常識的にはありそうにも無い。
ヒマラヤやアンデスの氷河が溶けて、内陸の川が夏に流れなくなるということだけ心配していたが、海からも攻められるとは。しかも、オーストラリアや米国中西部のように雨が降らなくて上がったり(かんばつ)の地域もあるから、これでは世界の穀物生産はまさに前門の狼、後門の虎ということになる。
今でも満潮時には、東京湾の海水は、隅田川(大川)に流れ込んでいる神田川をさかのぼって、飯田橋から大曲あたりまで来るし、隅田川ではわが荒川区の汐入(しおいり)地区(大川が左に大きく曲がるところで千住の手前)まで来る。ここから上流でないとお米は作れない。(昔は大曲の上流の早稲田にいたって、名前のとおり、ようやく田んぼが作れた)。これだから、海面が1メートルも上がれば、「しおいり」地区はどんどん内陸に進んできて、関東平野の米作りもやばいことになるかも。
日本が世界に誇る灌漑技術で、何とかこの難問に立ち向かって欲しいところだ。打つ手があるのかどうかまったく分からないが。
(07.07.19.篠原泰正)